平成26年度夏季定期訓練激励(空自三沢基地)
2014.08.27
今年度の永岩俊道同窓会長による部隊実習激励は、第3学年航空要員の航空団実習を対象として、7月14日(月)に青森県の三沢基地に所在する航空自衛隊第3航空団において行われた。(昨年度は海自鹿屋基地において3学年海上要員の航空部隊実習を激励)
平成26年度の防大3学年航空要員の航空団実習は、7月4日(金)から29日(火)の約1ヶ月間、全国5か所に位置する戦闘航空団(千歳、三沢、小牧、築城、新田原の各基地)で実施された。
この実習は、空自の特質である各種の様々な機能が緊密に連携して初めて戦闘機による活動がなし得る事を、航空団の実習によって実感・体感させる事を主眼としている。このため、航空団を構成する飛行群、整備補給群、基地業務群隷下の各編成単位部隊の実務を体験し、実習学生は個別に別れて営内の空曹士と内務班で起居を供にする。更に、戦闘機操縦者の活動を体験すべくT-4練習機等による体験搭乗、そして航空団を強固に支援する救難、気象、管制部門の研修等、極めて盛り沢山な内容と成っている。
また、三沢基地は北部防空セクターの要となる北部航空方面隊司令部をはじめ司令部機能が集中し、警戒航空隊(E-2C)や全戦闘機の掩体運用等、他の航空部隊以上にエアーパワーのあるべき姿・活動を垣間見ることが出来る。そして最大の特徴は、米空軍第35戦闘航空団等が展開する基地であり、米空海軍航空部隊と空自戦闘機部隊が同一基地に展開する他に例を見ない実習環境と言える。基地上空に米空軍F-16及び空自F-2のエンジン音が響き渡り、実習学生にとっては基地到着直後から、その力強い空気の脈動に日米エアーパワーの巣に来たことを体感したに違いない。
永岩会長が三沢基地を訪れたのは、実習開始後11日目、航空団での概要研修を終え、各群の実習に移行する時であった。
1 空自三沢基地における表敬・激励
(1)三沢基地に到着
7月14日(月)は朝から濃い海霧(シーフォッグ)が発生し、JAL機の三沢着陸も危ぶまれたが、運良く霧も晴れ始め、着陸時には既にF-2戦闘機の訓練飛行が行われていた。
3空団司令部に到着後、応接室で航空団実習を支援する部隊側関係者等との顔合わせが行われた。
実習計画主幹の人事部長 岸川勝行2空佐(防27期・戦闘機/警戒機P)から、直近の三沢基地の説明等を含め懇談が行われたが、監理部長 荒川富美子2空佐(一般幹候81期(防大35期相当)通信電子)はじめ、訓練班長 武智竜司1空尉(部内幹候97期教育)、総務班長 市木和司1等空尉(部内幹候90期総務人事)にも同席いただき、司令部各部門から防大夏季実習が多くの支援を受けている事を実感した。
(2)第3航空団司令、北部航空方面隊司令官等への表敬・懇談
3空団司令 井上浩秀空将補(一般幹候75期(防29期相当)航空機整備)との懇談において、前幹部候補生学校長時の経験を踏まえ当世の若い防大出身候補生の印象が語られた。その印象は、部隊における初級指揮官としての活躍を期待しつつ、その期待があるが故に厳しいものでもあった。
「苦しい訓練状況下において増々発揮される同期間の固い団結、支えあい、それらの関係に裏打ちされたリーダーシップ」これらが、防大出身候補生として求められるイメージかなと改めて感じる懇談であった。
引き続き、北部航空方面隊司令官 森本哲生空将(防25期・航空機整備)及び同副司令官 上田知元空将補(防25期・戦闘機P)への表敬・懇談の後、場所を食堂に替え、北部航空警戒管制団司令 中原茂樹空将補(防27期・総務人事)及び同副司令 山口浩樹1等空佐(防26期・要撃管制・防大同窓会三沢支部長)が加わり会食が行われた。
話題は30年余の時間を遡り、夫々の防大3学年時の部隊実習時を想起しつつ、空自における時代の変遷が語られた。(三沢基地においても、F86F戦闘機を擁する第81航空隊から、第3航空団におけるF1、F4、F2戦闘機へと変遷)
また、その変遷の渦中において空自を支えた様々な幹部自衛官像(旧軍、一般大学、防大、航空学生等)が話題に上り、その仲間に入る動機付けが3学年の航空団実習だったなとの想いが共有された。
(3)3学年航空要員に対する激励
1240から1400までの間、基地会議室において実習中の3学年航空要員15名(他2名は飛行隊において体験搭乗中、防大引率教官矢野1等空尉(防51期・要撃管制)も陪席聴講)に対し、永岩会長より激励の講話及び質疑応答が行われた。
まず、全学生に対し、会長から「私に何を聞きたい」との逆質問がなされ、各学生の講話に臨む姿勢を確認しつつ「指揮官(幕僚)としての心得(変わる勇気・変える決意!)」と題する講話は始まった。
<会長講話の要旨>
40数年前の私の航空団実習において一番衝撃的記憶は、実習中お世話になった先輩の戸田3空佐が、部隊実習の直後にF104戦闘機で殉職されたニュースを見た時だった。あんなに身近に接してくれた先輩の死。自衛官の職務の厳しさを実感した防大3学年の夏だった。
*戸田泰義3等空佐(防大3期:昭和30年4月防大入校・34年3月卒業)
昭和44年8月6日、 第7航空団206飛行隊所属F104戦闘機にて射撃訓練から帰投中、百里基地東北東沖の海上に墜落(殉職)
平成11年11月22日、入間基地着陸直前にT33練習機の機体にトラブルが生じ、13秒という生死を分けた一瞬の判断の中で、自らの脱出より人口密集地への墜落回避を優先し、2名のパイロット(航空学生出身)が殉職した。当時、私は空幕監察官の立場にあり、航空事故調査委員長として航空事故の原因究明に当たるとともに、事故再発防止のため、航空部隊の操縦者達と殉職したパイロットの想いを語り合った。この「13秒後のベイルアウト」の話は、本年3月、防大58期生の卒業式にあたって、安倍総理の訓示冒頭にも語られた。
「事に臨んでは危険を顧みず、・・・・もって国民の負託にこたえることを誓います。」
この宣誓の重みを改めて感じる今日この頃、集団的自衛権の限定的行使容認の閣議決定が行われた7月3日(木)に、官邸での総理との昼食会に防大同窓会長としてお招きいただいた。齋藤隆第2代統合幕僚長(前防大同窓会長)、折木良一第3代統合幕僚長(現同窓会副会長)と共に官邸に伺った。大学の同窓会長の立場で総理とお話する事自体、稀有な事だろう。
総理からは、冒頭、自衛隊の指揮官・幕僚としてその中核を担う現役防大同窓生の諸官に敬意と感謝のお言葉を頂戴した。
本年5月開催された第13回アジア安全保障会議において、安倍総理は「アジアの平和と繁栄よ、永遠(とこしえ)なれ」と基調演説を行った。近年、我が国を取り巻く戦略環境は激変し、「日本にとって安全保障とは?」と自問しつつ、より真剣に向き合わねばならない時代となっている。
「大変な問題を先送りせず、状況変化に対する感受性を高める。」『変わる勇気・変える決意!』こそ今最も求むべきものだろう。
「汝、平和を欲するなら、戦いに備えよ!(古代ローマの格言)」
「自分で自分を守ろうとしない者を誰が助ける気になるか!(ニコロ・マキャベリ)」
といった先人の言葉は示唆に富んでいる。同時に
「善く士たる者は武ならず、善く戦う者は怒らず・・・(老子「配天第68章」)」といった東洋文明の精華たる言葉も意味深い。
これらの言葉の意を体現しつつ日中間の現役退役高級幹部間の意見交換が継続され、退官後の防大同窓生も大きな役割を果たしている。
更に国家の安全保障を担う者同士の信頼感、特に同盟国のミリタリー間の友好と信頼は、何にも増して大切だ。この講話終了後、在三沢の米空軍部隊を視察のため来基する太平洋空軍司令官カーライル空軍大将を出迎える機会に 恵まれた。この機会も、防大同窓会長を拝命した中での、日米空軍間の交わりで得た一期の縁と思えてならない。
君達、防大航空要員もコロラド・スプリングス空軍士官学校の士官候補生を良きライバルとして頑張ってほしい。目を世界に向け、国際的な視野をもって自らを磨き、部隊を練成し、精強さを保ち向上させてこそ、真の同盟関係を維持発展させる事が出来る。
国家国民の安全を守る強い意志を持って、『変わる勇気・変える決意!』を持つことこそ、喫緊の重要事項であり、自衛隊は間違いなく、その魁となる。近い将来、第一線の現場部隊において、その中核となるべく「同期の絆」を保ち、「凛然」と進む事を期待する。これが、未来の指揮官・幕僚となる君達若き防大生諸君に対する期待と激励の想いだ。
私は現役生活を終えて数年経つが、改めて、「国家防衛の志を操縦 桿に例え「You have control!」と呼びかけよう。力強く「I have control!」と答えてほしい。」
諸君の将来に幸あれ!
(4)太平洋空軍司令官の出迎え・再会
三沢基地ベースオペレーション前で、永岩会長は、森本北空司令官、上田北空副司令官及び米空軍第35戦闘航空団司令サンドバル大佐と供に、VIP用多用途支援機C20から、にこやかな笑顔を浮かべタラップを降りるカーライル大将を出迎えた。図らずも、昨秋、JAAGA(日米空軍友好協会)訪米団の一員として、ハワイ・ヒッカム空軍基地の太平洋空軍司令部訪問以来の旧交を叙する事となった。
2 第3航空団の3学年実習受け入れ部隊指揮官との懇談
(1)基地業務群司令 大谷康雄1等空佐(防33期・研究開発)
基地業務群は、基地警備、基地防空、施設、消防、給養、厚生、会計、通信、輸送、衛生等、基地の活動基盤を支える様々な機能を併せ持つ部隊で構成されている。実習生には、食事の調理から消防、基地警備に至るまで、様々な体験的実習を計画しているとの事であった。
しかし、実習生の多くは、未だ戦闘航空団におけるこれらの機能の重要性が実感出来るには至らず、将来、航空団実習において「あの深夜の増加警衛は、~だったな」という体験が、警衛に立つ部下隊員の心情を理解する事に繋がるはずと大谷群司令は語った。これらの体験が先行投資となり、任官後の現場指揮官等になった際、その経験が活きてくると述べ、「私もそうでした。」と群司令は笑った。
また、前の職務が空幕技術課であり、先進技術実証機等の将来に向けた装備品開発の話をした際、実習生が真剣に聞き質問をしてきて、頼もしさを感じたとも語った。
(2)飛行群司令 谷嶋正仁1等空佐(防34期・戦闘機P)
飛行群は、戦闘機操縦者及び日々の飛行前後の点検等を行う部隊整備員によって戦闘機等の飛行任務を遂行する「槍の穂先」の部隊である。
夏季実習期間中に実習生17名全員に、T4練習機への体験搭乗を実施する計画を谷嶋群司令が語った。7月の海霧発生等の天候気象制限、体験搭乗のため一定レベル以上のパイロット占有、貴重な練習機の機体別時間管理等、17ソーティーの飛行回数は、かなり部隊の練成訓練に皺寄せが生じるのではないかと質問した。
群司令は「影響が出る事は確かだが、将来の指揮官等、特にパイロット適性を有さない実習生にとっては、大変貴重な経験であり、十分意味のあるフライトである事を飛行群の隊員達も皆承知している。戦闘機操縦者の活動を追体験し、将来の空自幹部として巣立ってほしい。」と述べ、基群司令と同様に防大生に対する先行投資の重要性を語った。
(3)整備補給群司令 德重勇一1等空佐(一般幹候80期(防34期相当)航空機整備)
整備補給群は3空団が保有するF2戦闘機及びT4練習機の支援整備を一手に担い、航空機可動率の成否を決する機体各システムのスペシャリスト集団である。航空団の人員規模の約半数をもって、航空機の品質を高度なレベルで確保している。
德重群司令は「整備部門においても、若い整備幹部の活動は整備の現場における士気の源泉であり、防大や一般大学出身の若手幹部の活気に期待している。
航空機システムのイロハについて、生きた機体の爆音と振動の中で隊員とともに学ぶと同時に、情熱と若さ溢れる熱気で、小隊を引っ張っていかねばならない。
以前は、小隊付幹部としての見習い期間があったが、現在、その様な人的余裕はなく、隊付と術科学校の期間が終われば、ただちに数十名の隊員からなる小隊の現場指揮官となる。防大3学年の部隊実習も、近い将来の小隊長の姿を思えば、極めて重要な1か月ではないか」と語った。
3 同窓会三沢支部の主要幹部との語らい
(1)北警団司令部訪問・懇談
3空団各群司令との懇談後、北部航空警戒管制団司令部を訪問し、中原団司令及び山口副司令と懇談した。
北部航空方面隊も他の方面隊と同様に、3学年の戦闘航空団実習と並行して、4学年のレーダーサイト等警戒管制部隊の実習を受け入れており、稚内、当別等9個の固定レーダーサイト、移動警戒隊等を隷下におく北警団においても、4学年の実習中との事。「3学年で体験した戦闘機部隊のイメージを土台に、センサーとネットワークにより日本周辺空域全般を監視管制する大空の燈台と神経中枢を理解し得る様に計画している。大海原を望む山頂、離島で勤務する空自隊員達の姿に接し、監視クリューのシフトに交じり、レーダースコープを凝視し、その緊迫感を体感している事だろう。」との会話が持たれた。
(2)北空司令部訪問・懇談
北部航空方面隊司令部においては、短時間ながら司令部幕僚長 尾瀬佐一郎1等空佐(防27期・戦闘機P)、防衛部長 植森治1等空佐(防35期・戦闘機P)、装備部長 清水俊和1等空佐(防28期・航空機整備)を訪問・懇談した。
航空作戦全般を指揮統制する方面隊司令部の活動は、防大生にはまだ早く、防大卒業後10年以上の実務経験を積んだ指揮幕僚課程(CS課程)の学生等が研修を行う。防大生にとっては、兄貴分にあたる小隊指導官がこれから受験しようとするCS課程の研修対象とあっては、方面隊司令部は、未だイメージの外側に位置している。
しかし、7月28日の実習最終日の夜、三沢の防空管制群(北警団の防空指揮統制中枢)研修に来基する4学年、3空団実習の3学年、三沢基地の防大同窓会メンバーが一同に会し懇親会が開かれると聞いた。
方面隊司令部を中心として、戦闘機部隊、高射部隊、警戒管制部隊、管制・気象・輸送・施設等の支援部隊の機能を担う様々な職種の先輩達と一同に会し懇親を深め、逍遙歌を雄叫びのごとく歌えば、様々な現場で職責を果たす数年後の自分の姿も少しは想像出来るにちがいない。方面隊司令部以下、各司令部、DSC_1312-1.jpg各機能別部隊を有する三沢基地と那覇基地は、防大実習生にとって、空自の組織を多面的に理解する絶好の機会を提供している。
(3)防大同窓会長を囲む夕べ
昼間時に懇談した中原北警団司令、山口北警団副司令(防大同窓会三沢支部長)、尾瀬北空幕僚長、清水北空装備部長に加え、幹事役として警戒航空隊第1整備群司令 中内靖雄2等空佐(防29期・航空機整備)を交え、永岩同窓会長を囲む宴が設けられた。
会長から、防大3学年航空要員の激励を三沢基地で出来たことに関し、宴を囲む同窓会三沢支部の主要メンバーに謝意が表され、また空自三沢基地の更なる発展を祈念する言葉が述べられた。東北の夏到来を感じつつ、会長の炉辺談話に空自や防大の話題を交え宴は進んだ。
また、この宴席を調整してくれた警戒航空隊1整群検査隊長 伊藤智寛3等空佐(防41期・航空機整備)は、那覇基地に展開するE-2Cの支援整備隊長として、宴席のセットを終えると同時に那覇に展開したと聞き、南西域の状況安かれと心に念じた。
4 航空団実習の成果~三沢基地直上の日米戦闘機~
7月15日(火)1000。三沢空港ターミナルで帰京のJAL便を待っていると、轟くエンジン音とともに米空軍F16戦闘機が、単機の機動飛行を開始した。(青森の地方版ニュースによれば、デモフライト操縦士の認定訓練を兼ねて、報道公開すると同時にその状況をカーライル太平洋空軍司令官視察。)
数十分の高機動フライトの後、今度は複数機の編隊が離陸してゆく。宮崎県新田原基地から飛来中の飛行教導隊F15、3空団のF2各戦闘機が次々に訓練空域に飛び立った。実習中の3学年航空要員にも、このエンジン音が体中に響き渡っている事だろう。
戦闘機を操るパイロット、機体を最高度の品質に磨き上げる整備員、基地の各種インフラ機能を維持確保する隊員達。夫々の持ち場を支える隊員達の姿を想起し実感出来れば、3学年夏季航空団実習の成果ありと言うところか。
併せて、空自・米空軍双方のフライトに日米同盟の重要性、精強で相手国に伍してゆく力量がなければ、真の同盟に基づく共同作戦は成り立たない事を理解出来れば、三沢基地での実習効果は十二分にありと思いつつ、JAL機に搭乗する。機内から窓越しに、基地全景を眺め、3学年実習の実り多かれと祈念した。
登場する方々には御本人に了解をいただき、期別、職域等を記載させていただいた。防大の実習に当たって部隊側が多くの職域に渡って支援を行い、また、如何に多くの部隊が第1線たる現場において、防大生の将来の活躍を期待しているかを記録に留めたいが故の記載である。
また、記載させていただいた官職は当該夏季実習期間中のものである。
ここに、あらためて、同窓会長の激励行に対する御支援・御協力に感謝申し上げ、関係各位の御活躍を祈念する次第である。(広報機関誌担当 杉山伸樹記)