今人生、真っ盛り 〜30期(空)〜
2024.12.16
宇宙ベンチャー企業にて
井筒 俊司 (30期 航空)
この寄稿を書いている時点で、退官してから1年半、還暦を迎えてから半年となりました。いただいたお題が「今人生、真っ盛り」、そうはなりたいものの、果たして現状はどんなものかと考え込んでいます。振り返ってみればある程度責任ある仕事を任され、遣り甲斐を感じ始めたのが40歳くらい。人生100年時代なので、そうなると80歳くらいまでは納税者としてなんとか働く必要があることを考えると、その中間である還暦の今はまさに真っ盛り(折り返し?)との勝手な計算のもと、話をしたいと思います。
私が入社した(株)アストロスケールはおよそ200名の社員を有する宇宙ベンチャーで、軌道上サービスという、少しばかり耳慣れない仕事をしています。宇宙開発というと、人工衛星から国際宇宙ステーション、太陽系惑星から小惑星探査までと、人類の探求心と英知は留まるところがありません。しかしながら、宇宙「利用」もしくは「ビジネス」となるとどうでしょうか。GPS、天気予報、衛星通信等々、我々が利用しているものの大半は、人工衛星によるものです。人工衛星は宇宙空間にありますが、正確にいえば地球を回る軌道上です。低い軌道で500kmくらい、高い静止軌道であれば36000kmと差があるものの、「無限に広がる大宇宙」ではなく、地球の比較的近くを回っていることになります。そしてその軌道上では、寿命が尽きても回り続けている人工衛星、人工衛星を軌道に投入したロケット最上段部、衛星等から脱落した部品、更には衝突や衛星破壊により生じた数えきれないほどの大小の宇宙ゴミ(デブリ)が漂っています。その数は減るどころか指数的に増加する恐れがあり、そうなると衛星軌道はデブリで使えなくなってしまいます。JAFによるロードサービスよろしく、そのようなデブリ除去を始め、軌道上での衛星の寿命延長、役目を終えた衛星の軌道からの離脱や衛星によるデブリ等の観測をサービスとして提供しようとしているのがアストロスケールです。「航空」自衛官を卒業したので、次は「宇宙」という、非常に単純な動機で入社しました。
航空自衛官を37年間、防大を入れれば40年以上防衛庁・防衛省で過ごしてきた私にとって、民間企業の中でも少しばかりエッジの効いたベンチャー企業での勤務は刺激が多く、戸惑うところも少なくありません。まず、宇宙関係の業界のことが分かりません。三菱電機やボーイング、ノースロップグラマンといった名だたる企業が衛星を製造運用していますが、それ以外でも「○○○スペース」という企業が国内外問わず数多くあります。シンポジウムや展示会に足を運んでも「なるほど」と感心するばかりで、結局会社名と事業内容が繋がりません。またベンチャーやスタートアップの採用形態は、必要なポストに適任者を中途採用するということが主体です。採用したら数日後には図面を引いたり営業したりという即戦力の集まりです。社内で研修担当をしていますが、コンプライアンスのような法定事項で研修が必須なものはまだ良いのですが、それ以外にどのような教育研修が必要かを考えることは今後の課題の一つです。如何に自衛隊が訓練や教育に力を入れ、高校や大学を卒業した新隊員をしっかりと育ててきたかを改めて痛感しています。しかしながら、驚きや戸惑いは未だにあるものの、自衛官をしっかりと勤め上げてきたからこそ今の自分があり、大きく違う環境でも何とか仕事ができているのだろうと感じることもあります。
現役時代から、世の中で語られているリーダーシップ、特に大企業やベンチャーの創業者に見るリーダーシップは参考になることが多くありました。「事に臨んでは危険を顧みず」と宣誓している我々ですが、そのような企業のリーダーたちは今までにないモノを世に生み出し、一方で常に倒産や解雇という脅威と向き合っています。お互いを尊重し学ぶことは私たちに広い視野と柔軟なマインドセットをもたらします。そしてそのことは、槇智雄初代学校長が当時の学生に語り、そして今も受け継がれている「真の紳士淑女にして、真の武人たれ」にもつながる、幹部自衛官として必須なものの1つだと思います。
最後に今回のお題の人生「真っ盛り」とは何か、改めて考えてみました。人生で一番忙しい、もしくは頂点と考えると、今の自分が正直、真っ盛りかは疑問があります。しかしながら「真っ盛り」はグラフの「頂点」ではなく、「傾き」と考えると少しばかり合点がいくかも知れません。新たなことを勉強し知識をリフレッシュし、色々な人と知り合い、成長をする。確かにそのような「傾き」であれば、今は真っ盛りかも知れません。人生山あり谷ありと言いますが、実はそのような「位置」ではなく、その時その時の「傾き」が遣り甲斐であり、真っ盛りと感じるか否かの違いかも知れません。