同窓生は今

68期生に聞く ~海自一般幹部候補生~

2024.12.01

「伝統とは」



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 第75期一般幹部候補生課程 第6分隊

  一般幹部候補生 海曹長  八鍬 龍志



 海上自衛隊幹部候補生学校・第75期一般幹部候補生課程(Ⅰ課程)の八鍬候補生です。この度、防衛大学校 第68期本科学生の卒業生を代表し、「小原台だより」に寄稿する機会を頂きましたので、「伝統とは」と題し、私が感じたことを綴ろうと思います。

 緊張と不安を胸に門をくぐった3月末から約半年が過ぎ、当初に比べたら少しは立派な幹部候補生になったと感じます。生活には慣れ、元気で活発な同期の姿を最近目にすることが増えました。外出点検のための容儀の整備や、集合に遅れまいと5分前の精神の実行などが当たり前のようにできるようになりました。最初の頃は、これが果たして将来の何に役立つのか、疑問に感じることも多々ありました。同期と議論を交わす日もありました。しかし、その行動が習慣化された今、疑問を持ちそれを変えようとする人は少なくなりました。半年で卒業できるしいいかな、と思う人がいるのかもしれません。その中で感じた海上自衛隊幹部候補生学校(以下「候校」と称します。)という教育機関から、我々候補生、そして将来の幹部自衛官に求められていることについて、「伝統とは」と題して、皆様に伝えたいと思います。

 前期学生長として勤務し、日々学生隊の現状と目標の乖離を埋めるため、業務を行ってきました。防衛大学校とは異なる規則や日課時限等から手探りの日々が続きました。集合時は必ず5分前に集合すること、毎日実施される巡検のための準備、甲板掃除をすること、初めての外出点検終了後、それまでの疲労の蓄積と達成感から門の外に出たときは汗だくの制服のまま、抱き合って喜んだことは今でも覚えています。しかし、数日が経ち同期から不満の声をよく耳にすることが増えました。結局5分間待機するなら集合はオンタイムでいいのでは?巡検のこの統制事項は何の意味があるの?外出点検の意味は?など、学生の長である私に沢山の意見が届きました。当時の私は、今は海上自衛隊に必要とされる基礎の資質を習得する、型にはめる時期だから頑張ろう、と声をかけました。納得する同期もいれば、しない同期もいましたが、やり続けました。正直に申し上げると私自身、これは将来の何に役立つのか疑問に思うことはありました。
 候校の規則の一つに「学生服務要領」があり、それには学生生活は学生主体で作り上げ、学生生活を通して将来の幹部自衛官に必要な基礎を修得することを目的とする、と記載されています。従って、学生の手によって上記に記した将来の何に役立つのか、という不満を「学生服務要領」の変更で解決することはできます。実際、議論を行い変更した部分もあります。しかし全ての変更はできませんでした。いえ、できなかったではなく、しなかったと今では考えます。
 規則を変更するためには膨大な準備が必要です。なぜなら長期に渡り、その規則に則って生活をした先輩たちの考えを変更する、言い換えると必要でなくなったものを現状や目的に適応させる作業になるためです。そこでなぜ、変更する必要があるのか、変更後の新対策は目的に適したものなのか、予想される問題はないのか、といった様々な意見に対して準備をする必要があります。またそのための議論は長きに渡ると容易に想像できます。試験や訓練等で多忙の中、それに時間を割ける、真剣に取り組むことは困難です。したがってそれに向き合う意志と達成できる力が私たちに求められている資質ではないのか、と考えます。
 海上自衛隊には「伝統」を継承する文化があります。常に精強で即応体制で取り組める理由にはこの文化が非常に役立っていると感じます。しかし、私はこの「伝統」という言葉を誤って理解してはいけないと考えます。先ほど、候校では学生服務要領を通して我々に必要な基礎を修得するために規則を変更できると申し上げました。これはつまり「伝統」には良いものだけでなく悪しきものがあるいうことです。悪しきとは、その時代や情勢に適していない、効率や必要性の薄いものだと考えます。我々候補生はその伝統を変える力があり、権利があります。その権利は活用しなければなりません。

 近頃、海上自衛隊では不祥事が生起しました。これに対し様々な議論が行われ、現在進行形で対策が講じられていると考えます。この瞬間にも「良き伝統」はよりよいものに継承され、「悪しき伝統」は淘汰され変更されています。我々の先輩たちも悪しき伝統と向き合いながら、専心職務に励まれているのです。我々は1年後には部隊に配属されます。候校での1年間は一瞬です。これを読んでいる同期、後輩たちには次のことを伝えたいです。挑戦し常に進化を目指せ、我々が今後の「自衛隊の伝統」を築き上げるのだと。残り半年間で良き伝統を継承できるよう、日々向き合います。来年度、やってくる後輩たちへ、良い伝統を継承し、悪しき伝統には立ち向かい、時には変えながらよりよい候校生活を送ってください。

(令和6年10月)

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