68期生に聞く ~陸自一般幹部候補生(1)~
2024.12.01
「真に自分と向き合って得た気持ち」
陸上自衛隊幹部候補生学校
第3候補生隊第3区隊
一般幹部候補生 陸曹長 村田 菜緒
私は現在、陸上自衛隊幹部候補生学校105期BU課程に入校中の防衛大学校68期卒業生の村田菜緒です。
来年度任官し、幹部候補生学校に入校する予定の69期の皆さんは現在どのような防大生活をお過ごしでしょうか。昨年度の私自身を思い返すと、任官への不安を抱きつつも、卒業研究に追われつつ、最後の学生生活を楽しんでいたと記憶しています。最後の1年を様々な気持ちで過ごす皆さんに向けて、私の話が来年度の生活の一助となればと思います。
現在もなお、幹部候補生学校での修学を続けている私ですが、入校1か月が過ぎた時期、退職を考えていました。退職を考えた理由は、体力的なきつさよりも、精神的なきつさで、対番のような存在でありつつも同期であるU区分(一般大学出身者)のバディーとの接し方に悩んだことが大きな要因でした。そもそも、一般大出身者と防大出身者の立場は本来対等であり、私は教える立場ではない、しかしながら、知識や経験のアドバンテージのある防大生がいかに助けつつ切磋琢磨することができるか、ということに一人模索し、パンクしたこと、それが引き金となり、「私は自衛隊に向いてないのではないか。辞めて別の道に進もう」という決断をしました。そのような私に対し、ありがたくも気にかけてくださった防大時代の上級生や、周りの職員の方々、そして家族と話すうちに「辞める」ことに固執していた思いが徐々に溶けていきました。その私の思いを変えるに至った出来事が2つありました。
1つ目が、候補生隊長との面談でした。上記に述べた通り、候補生隊長との面談を行うまでの私は、特にバディーとの関わり方に悩んでいました。日常動作においてバディーが何か失敗をした際、自分のサポート不足だと思い、自分自身の要領の悪さに情けなさを感じていました。そんな私に対して「そんなに思い詰める必要はない、むしろ、傍で成長を楽しむくらいの気持ちでいいんだよ」と声をかけてくださった。言われた瞬間は素直に受け入れられるほどの心の余裕がなかったものの、その言葉は、徐々に心に浸透して「辞めたい」という気持ちが徐々に冷静になっていく中で、ふとした彼女の言動に対して「こんなにも成長している」と親心にも似た気持ちが目覚めているということに気づいていきました。その気持ちの変化によって、相互作用的に幹部候補生学校を続けていこうという意思が強まっていきました。
そして2つ目は、退職するのだと決断し、意思表示してゆく過程で生まれた別の意思でした。区隊長に対して、退職の意思表示を行い、理由を聞かれた際、自分自身が自衛隊に向いていないからだと伝えました。そのように伝えながらも、同時に心の中で「本当にそう言えるほど自衛隊という組織に対して本気で向き合ってきたのだろうか」という疑問がわいてきました。そう気づいたときに「この学校の教育訓練すべてに対して本気で向き合って、心から向いていないと思ったときに辞めよう、後ろ向きな気持ちではなく、別の何かに進みたいから辞めるという前向きな選択をしてここを去ろう」と決意しました。実際、防大時代の訓練時間をあまり本気で取り組んでいなかった私は、そう決意してから本気で向き合ってみると、訓練も教育も、それまで自分が思っていたよりも楽しいものだと気づくことができ、それまで以上に充実した日々を過ごすことができるようになりました。5月のゴールデンウイークを過ぎたころには、退職したいという気持ちよりも、伸び代しかない自分自身やバディーの成長に気持ちが上がるとともに、同期と過ごす日々を楽しむことができるようになりました。
この入校当初の経験から、私は自分自身の生き方や他者とのかかわり方について深く考えることができ、より自分の中にある芯を強くすることができたと考えています。入校から5か月が過ぎ、卒業まで折り返し地点となった現在でも、つらいことやきついことがあるとめげそうになりますが、周りの同期とともに切磋琢磨し、成長できるこの環境を楽しみながら過ごしています。
最後になりますが、同様に卒業まで残り僅かとなっていく4学年の皆さんも、今という時間を本気で向き合って楽しんでください。
(令和6年10月)