学校長に聞く
2024.03.14
防大学校長 久保文明 |
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昨年度に引き続き、投稿する機会をいただき、心より御礼申し上げます。 |
日本社会全体の流れと歩調を合わせ、防衛大学校も令和5年5月連休明けから、コロナ対応においてはほぼ平常に復帰し、 キャンパスにも明るさが戻ってきました。同年11月の開校記念祭はほぼコロナ禍以前と同様の形式で実施し、一般の方にも自由に ご来校いただきました。 日本社会全体の流れと歩調を合わせ、防衛大学校も令和5年5月連休明けから、コロナ対応においてはほぼ 平常に復帰し、キャンパスにも明るさが戻ってきました。同年11月の開校記念祭はほぼコロナ禍以前と同様の形式で実施し、一般の 方にも自由にご来校いただきました。 昨年度の『小原台だより』においては、防大で初めて中長期計画を策定したことを紹介させていただきました。自衛隊に中期防衛力 整備計画はありましたが、防大にはそれに相当するものがありませんでした。そこで10年くらい先を見据えながら、同時に翌年度の 予算要求の根拠にも使用できるように、中長期計画を作成しました。また、新しい課題は次から次へと生起しますので、5年ごとでなく、 毎年修正していくこととしました。こちらはかなり軌道に乗り、策定するプロセスも学内意見の聴取の仕方も含めて洗練され、また内容 そのものも充実してきたのではないかと感じています。 昨年度ご報告したJICAでの校外研修ですが、令和5年度は、ジブチとフィリピンで2人ずつ実施することができました。どちらも夏季 休暇中にまずJICA本部で約2週間研修し、その後現地に飛んでJICAプロジェクトの現場を約2週間視察させていただくという内容です。 最後は再びJICA本部に戻り、すべての研修の成果を報告させてもらいます。JICA職員の皆様には、ご多忙の中、防大生に特化した素晴らしい 研修プログラムを作成・実施していただき、また研修中も丁寧なご対応をいただきました。心より感謝申し上げたいと思います。 しかも昨年のジブチの場合は、大塚海男大使のご厚意により大使館の視察が、そして自衛隊のご協力により現地の基地の視察も加わりました。 防大生にとって、自分たちの先輩が大使をされている大使館と、自衛隊にとって海外で唯一の基地を訪問できたことも特筆すべきことであったと感じています。 もう一つ、こちらはジブチやフィリピンと比べると格段に近隣の出来事ではありますが、横須賀市教育委員会を通して走水小学校での運動会の手伝いに、 こちらも校外研修として数名の学生が派遣されました。後日校長先生がわざわざお礼に来てくれましたが、仕事もきっちりこなした上、礼儀正しく、非の打ち どころがないとのお褒めの言葉をいただきました。小規模の校外研修ではありますが、異なった職場環境で異なった上司のもとで研修することは、生活や常識 がとかく防大・自衛隊の世界に閉じこもりがちな防大生にとって、貴重な経験となるのではないかと期待しています。 私が令和3年4月に赴任した直後に、当時陸上自衛隊幕僚長であった吉田圭秀氏から、防大指導教官を若い時に努めた経験に基づく貴重なお話しをいろいろ伺いました。 その一つは、「今年の重大事件」を学生に書かせたらその前年の事件ばかりだったとのことでした。すなわち、防大生は新聞を読まず、ニュースを見ていないという ことになります。最近は学生舎の部屋単位で新聞をとることもほとんどないようです。何とかしたいと思案しているときに、日本経済新聞社からかなり大胆なアカデ ミック・ブラン、すなわち防大生割引ブランを提示してもらいました。当初は日経新聞だけでしたが、私の方から英語学習にも使用できるNikkei Asiaも付け加えた プランの作成を依頼しました。当然コストは若干増しましたが、調べてもらったところ、元来校内で多数の部課で購読していたため、そちらもオンラインに切り替え れば支出増はそれほどでもなく、何とか対応可能であるということになりました。この結果、現在、学生全員と必要とする事務区および希望する教員は、無料でオン ライン購読が可能となりました。ここまで基礎条件を学校側が整えてあげても、実際に学生が日々紙面を、とくに英文記事も含めてどの程度読んでいるかは別問題です。 しかし、教官によっては演習などで、英文記事を読んで報告させるようにして、学生を誘導してくれているようです。これもささやかな一歩ではありますが、学生が 少しでも広い社会に関心をもつことに繋がっていけばと願っています。 学生舎生活でも若干の変化が起きています。 訓練部長の指導の下で、学生間指導において、徹底してパワーハラスメント的言動を排除しようとしています。例えばカッター競技の準備訓練においても、上級生は 「そんなんじゃ駄目だ」といった否定的な言葉でなく、「よく頑張った」というような誉め言葉でもって応援するように変えているようです。一昨年秋に、伝統の(?) 乾布摩擦を止めました。ご異論があるかもしれません。ただ、学生に聞くと、元に戻さないで欲しいという強い答えが返ってきます。 昨年度は、卒業式に任官辞退者も出席させました。むろん、任官してもらえないことは残念ですが、卒業要件を完全かつ立派に満たしている以上、任命宣誓式は別 として、他の学生と同等に扱うべきと思料しました。関係局長・課長あるいは副校長も皆同意見であったと記憶しています。 ここでは詳細を省略しますが、現在試行中のものもあります。小さな改革であっても、担当の自衛官は、これを変えると先輩方からお叱りを受けるのではないか等々、 かなり神経質になるようです。いろいろご意見をぜひいただければ幸甚ですが、同時に現場での試みを暖かく見守っていただければ幸いです。 令和6年度入試(令和5年度に施行。6年4月入校者用)においては、一部において、志願者減を食い止めることができました。理由の一部は、地方協力本部のご協力を得て、 推薦入試の面接会場を全国に展開したことかと思われます。さらに近年は防大自身、自前の入試予算を獲得して、地本から呼ばれなくてもこちらから教官・事務官を 地方に派遣するプッシュ型の説明会を多数開催しています。 ただし、より多くの志願者を獲得するためには、単に入試における工夫だけでは不十分であり、防大全般の魅力化の努力と一体とならなければならないと感じています。 まさに、海外留学制度や校外研修制度の拡充、あるいは学生舎生活や学生間関係の改善などについて、本稿で触れてきた所以であります。 最近、真殿知彦海上幕僚副長が書かれた『海軍兵学校長のことば』(三和書籍、2023年)を読んでいたところ、谷口尚真学校長の次のような言葉に出会いました。 「海軍の消長は数にあらずして質にあり、物にあらずして人にあり。而してその人を作るは実に兵学校の使命なり。」これは海軍を自衛隊と、兵学校を防大に言い換え ますと、完全に今日にも当てはまる文章であると確信します。 歩みは遅々たるものではありますが、防大がより魅力的な学校となるように引き続き努力を続けていく所存です。今後ともご助言をいただければ幸いです。 |