今人生、真っ盛り ~27期(陸)~(2)
2021.11.22
「大学にて思うこと」
「今人生、真っ盛り」とは、心身ともに充実し、最も活力の旺盛な時期を意味すると思います。この意味では、私の「真っ盛り」の時期は、陸上自衛隊の野戦特科部隊の大隊長や連隊長として、隊員と共に部隊の精強化に向けて頑張っていた頃だと思います。したがって、「今人生、真っ盛り」かと聞かれたら、もう過ぎたと答えざるを得ません。ただし、6年前に陸上自衛隊を退官した後の時期に限って言えば、一般大学の教員として防衛大学校や自衛隊とは異なる環境に身を置き、試行錯誤を重ねつつ、それなりの充実感をもって過ごしている今は、人生の第二の「真っ盛り」だと思います。ここでは、大学の教員として最近思うことを書いてみます。
コロナ禍を通じて見る大学の一面
新型コロナウィルス感染症が2020年3月頃から猛威を振るい始めると、大学は4月からの新学期における授業の方法を模索し、ほとんどの大学がオンライン授業を始めました。しかし、授業開始時期は大学によって4月から5月中旬頃とばらつきがあったようです。つまり、一ヵ月以上にわたって授業を全く行わないケースもあったことになります。学生から高額の授業料等を徴収し、国から多額の補助金を交付されている大学にとって、教育を行うことは社会的な責任ですが、コロナ禍という突発事態下とはいえ、大学はその責任を果たせたと言えるでしょうか。東日本大震災以降、政府は企業に対して災害等の危機時における事業継続計画(BCP)の作成を推奨してきましたが、2021年5月に帝国データバンクが行った調査では、BCP策定率は17.6パーセントに留まっています。一方、大学では東日本大震災以降、災害等の危機時における国、自治体、企業などの対応について様々な研究が盛んに行なわれ、BCPも研究対象の一つでした。しかし、危機時においても教育を継続するためのBCPを定めている大学は多くありません。正確な策定率は不明ですが、企業のそれよりも低いことは確実だと思います。
その第一の原因は、教員による研究が学校運営に反映されにくい大学の体質です。研究は教員が行い、学校運営は主として職員が行うといった大学内の役割分担が両者の融合を難しくしている場合があります。また、研究に専念したいので学校運営には関わりたくないとの教員の意向も垣間見えます。第二の原因は、正常化バイアスです。研究の結果としてBCPの必要性を認識していても、「なんとかなる」と考えて策定を怠ってしまうのです。この傾向は、大学に限ったことではありませんが...
感染状況が落ち着いてきた今、大学ではコロナ以前の状態に戻そうとする意識が強いように感じます。しかし、"Build back better"と言われるように、コロナ禍の教訓を無駄にせず、次の危機に直面しても教育を継続できる大学へと進化させることが重要ではないでしょうか。これは、防衛大学校にとっても他人事ではないと思います。
大学生と日本の防衛
「日本を守っているのは米軍」、「自衛隊の仕事は災害派遣」、「とにかく戦うことはダメ」...大学で『防衛政策』という科目を担当してきた4年間で何度も聞いた学生の言葉です。でも、これを責めることはできないと思います。なぜなら、ほとんどの学生たちは生まれて以来、学校でも家庭でも防衛について考えることも教えられることなく過ごし、修学旅行で訪れた沖縄や広島で聞いた話や、たまたま目にしたテレビの画面やSNSの情報だけで防衛に対するイメージを作っているからです。そんな学生たちにとって、私が『防衛政策』で教えている日本周辺や世界の軍事情勢、日本の安全保障・防衛政策の変遷、自衛隊の諸活動などは、初めて聞く話のようです。もちろん、防衛に対する自分のイメージに固執する学生もいますが、意外にも多くの学生が(程度の差はあるものの)比較的柔軟で、授業を通じて防衛に対する新たなイメージを持つに至っていると感じます。
そして、数は多くありませんが、自衛官を目指す学生もいます。私の所属する学部からも毎年、幹部候補生学校と曹候補生に入校・入隊しています。自衛官を目指す学生たちは、自ら防衛に対する意識を高め、地方協力本部と連絡を取り、筆記試験と面接の準備に取り組みます。しかし、試験に合格する保証は無いので、企業などへの就職活動も同時に進める必要もあります。現在の就職戦線は決して氷河期ではありませんが、中途半端な準備で希望する進路に進めるほど甘くもありません。このため、自衛官を目指す学生たちの就職準備の負担は大きくなります。また、経済的な理由でアルバイトに時間を費やさざるを得ない学生もいます。
こうした厳しさは、自動的に幹部候補生学校に進む防衛大学校の学生には体験できないものです。防衛大学校の学生諸官は、卒業したら是非とも一般大学卒の自衛官と話をして彼ら・彼女らの経験から学び、多様性への認識を深めて欲しいと願っています。