同窓生は今

今人生、真っ盛り ~27期(海)~

2021.11.22

「人生は何が起きるか分からない。だから面白い。」

  大塚 海夫(27期 海上)#27N1.png

 小学生の頃から「海軍士官」になりたかった。防大に入ってから40年間、自衛隊で過ごせたことを誇りに思っており、一点の悔いもない。父親が貿易会社を営んでいたので、我が家では、海外に出ることと、定年がないことが「当たり前」だった。だから、退官したときには、まだまだ長い人生、どうやって日本と海外を繋ぐことを生業にしようかと楽しみだった。

 日本と英国のシンクタンクのメンバーになるご縁を頂戴した。国内中心だが、シニアコンシェルジュというこれからの時代に求められる事業を起こした若い起業家のお手伝いをし、自衛官時代から強い関心を抱いていたAI企業のアドバイスもした。そのうち、商社からお声がかかり参与として勤務することになった。 民間で海を渡る、と思った途端、ジブチ大使の話が天から降って来た。これには正直、驚いた。元自衛官大使の前例はなかった。そもそも大使のオファーがあるとすれば、我が家において、それは家内に来るべき話だ。とはいえ、祖国に奉仕できることは無上の喜びであり、謹んでお受けした。
 国と大陸は異なるが、家内も同時の認証式で揃って陛下の御前に進むという前代未聞の栄誉にも預かった。子供の頃から、日本を愛することにかけては人後に落ちない自負はあったが、実際に特命全権大使を拝命して、日本を代表する立場になると、その任の重さに、「身の引き締まる思い」とはこういうことかと実感した。
 自衛隊将官時代には、海外から国際会議等への招待を受けて出かける機会がかなり多かった。当時の海幕副長から「お前はいつも先進国でいいよな。俺は途上国専門だからな」と冗談を言われたが、その自分が、いつの間にかアフリカに住むことになった。かつて、自衛隊が海賊対処活動を開始した段階で、ジブチに海将補のポストを置く計画が練られ、内局も担いでくれ、私がその任を負うことになっていた。しかし、与野党逆転し、省改革計画がご破算となってジブチ赴任も消えた。それが12年後に、同地に大使として赴任することになった。人生何が起きるか分からない。

★ゲレ大統領に信任状を捧呈 □□□ ★文化外交を支える同志山下勝己公邸料理人<br>は調理員として海自に入隊した元2等海佐

 

 ジブチは不思議で魅力的な国だ。四国の1.3倍程の面積に百万の人口、天然資源はほぼ無い国ながら、バベルマンデブ海峡という海運の要衝を扼し、アフリカにありながら、旧宗主国のフランス語と共にアラビア語を公用語とするイスラム教国としてアラブの色彩が強く、ソマリアやイエメンという崩壊した国家に隣接するとともに、百倍以上の人口を持ち、騒乱に揺れる内陸国エチオピアの外港としての役割を果たしている。そして何より注目すべきは、仏、米、伊、日、中という五か国の基地をホストし、スペインを加えた6か国の軍隊が常時プレゼンスを置いていることだ。
 ジブチは「アフリカの角」地域で唯一安定を享受する国家であり、国内の治安も極めてよい。夜中でも女性が一人で問題なく歩ける国は世界にそうは無い。これらの事実だけでも、国際関係の学徒にとっては、興味尽きない対象だと思う。
 自衛隊は海賊対処のためジブチに拠点を置き哨戒機を運用すると共に、艦艇の主要補給地としてジブチにプレゼンスを示している。世界の海上交通の安全を確保するための行動は、世界経済の安定を支えるとともに、港湾ビジネスに国の繁栄を依拠するジブチの安全保障にも寄与している。日本は、44年前のジブチ独立以来、インフラ、治安、交通、教育、保健衛生、農業、人材育成など、幅広い分野で、国民の草の根レベルにまで裨益する援助を行い、ジブチが「内戦」状態にあった辛い時期も継続的に支援を続けてきた。援助総額は五百億米ドルにものぼる。日本に対するジブチ政府と国民の評価は極めて高い。
 ジブチは世界一暑い国といわれ、夏の屋外温度計は50度を超える。衛生状態、医療体制は日本と比肩すべくもなく、シャワーを浴びても塩からい水が降り注ぎ、この国に居を構えるとなると苦労は相当なものである。その一方、ジブチ人は人が好い。誇り高い人々で、狡すっからい国民ではない。市内で物乞いをしているのは周辺国難民で、ジブチ人は相互に助け合う。だから、失業率が相当高くても、親戚家族がセイフティネットになっていて治安が保たれる。もちろん、日本的正確さを基準にするのは的外れだが、この国の人々と付き合うのはストレスが少なく、実に気分がいい。この国に来てようやく一年。生活環境、職場の文化など、最初はやっていけるか不安に思った。しかし、あっという間に、この国にかなり惚れた。

★日本供与による最大の警備艇ダメルジョグ艇上にて<br>ワイス沿岸警備隊長官と ★日本の援助による国道1号線補修工事完了式

 ここ数年、つくづく「うえ」に気を遣って生きて行くことが大事だと感じるようになった。運の「う」と縁の「え」だ。縁を大切にすると運も拓けてくる。人生60年の縁がジブチ勤務という運をもたらした。ジブチでの今日の縁が、どのような明日の運に繋がるか楽しみだ。人生はまだまだ続く。次は何が起きるか分からない。だから人生は面白い。

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