今人生、男盛り ~26期(海)~
2020.12.29
「再び、海を職場として」
中村 雅樹(26期 海上)
2015年3月に海上自衛隊を勧奨退職し、内航海運業の日本海運株式会社に入社、現在に至っています。 私が入社するまで日本海運には、船員を含めても自衛隊出身者は採用されておらず、私が初めてでした。私の所掌業務は、運航に関する安全管理全般です。
日々の業務としては、運航船が安全に航海できているかをチェックし、風浪の影響から航海続行は困難との判断をした場合は、近くの港湾等に避難するように指示を出します。特に、台風が日本に近づくシーズンに入ると気が抜けません。
その他、事故対応(事故分析・再発防止策を含む)、船員への安全教育、社内安全会議や船主さんとの安全会議も担当しています。入社当初は、安全の担当部長がいましたので、彼を補佐する顧問という気楽な配置でしたが、3年前から私が部長になり、安全の正面に立つようになりました。もっとも、部長とはいえ、部下は一人しかいないので雑務もこなしています。
第2の職場が引き続き海の上での勤務でしたが、商船勤務の経験がない私にとっては、未知の分野でした。そこで、真っ先に始めたのが、運航している船舶に乗船、一緒に航海し、彼らの仕事を把握することでした。その最初の出港で唖然としました。護衛艦では出入港時、艦長を補佐するため艦橋内には多くの人がいますが、一般商船では、船長一人しかいませんでした。エンジン操作も操船も全て船長がしていました。正直、目が点になりました。また、航海中のブリッジをみてみると、護衛艦では8名程度の当直員が勤務していますが、商船では僅か2名か1名です。しかも、艦長は基本、艦橋にいますが、船長は通常、ブリッジに不在です。操船指揮から操舵、見張り、船位の把握等々、全て2人(もしくは1人)でこなしていました。
「無理...。護衛艦と同じレベルの安全を担保するのは無理。衝突させないことだけを考えよう。」との考えに至り、彼らに必要な安全教育を組み立てました。また、運輸業界には国が規定した「運輸安全マネジメント」を実践することが課せられています。
これは、「安全に関しては現場任せにするのではなく社長自ら積極的に事故防止に関与し、責任を取りなさい。海運業界では、これまでのような『全部、船長任せ』は止めなさい」というものです。この制度の中核は、運航管理者という配置で、実質的な船舶の安全運航に関する責務を担っています。この配置は会社の役職とは別に指定され、国交省への届け出が義務付けられおり、私は、2年前から運航管理者としても勤務しています。
最後に、現在、取り組んでいることにゴルフがあります。元々、現役時代から嗜んでいましたが、100を何とか切れる程度で、100叩きの刑にしばしば遭っていました。防大同窓会ゴルフ大会にも参加してきましたが、26期は常にブービーメイカーと呼ばれる始末、「なんとかしないと。」との思いで、今、スイングの改造(というか正しいスイングの習得)に取り組んでいます。30数年間をかけてこり固まった個癖に苦労しながら、エイジシュートを達成すべく頑張っています。
≪ 海運業界とは ≫
海運業界には、大きく分けて内航海運と外航海運の2つがあります。国内の港と港を結ぶのが内航、国内の港と外国の港を結ぶのが外航です。
内航船舶数は平成31年3月31日現在5,201隻で、年々減少しています。そのうち、内海や沿岸近くを航行する小型船(499総トン以下)が7割弱の約3,500隻を占めています。事業者数は約1,860社、その中で、船主と船長(又は機関長)が同一人物で、家族ぐるみで運航している個人事業者(所謂1杯船主)が4割強の約800社あります。資本金では3億円以上の事業者が全体の6%しかなく、5,000万円未満の法人及び個人が85%を占める零細企業の割合が高い業界です。弊社は、日本通運のグループ会社で、年商では内航海運業界で10位に位置付けています。
次に輸送能力についてみると、10トントラックと比較した内航船舶の輸送量は、単純計算で、小型船(499総トン)1隻で10トントラック約45台分の容積を有し、重量では150台分を運送することが可能です。また、RORO船では、10トンロングトラック約170台分以上を輸送することができます。
国内輸送機関別における内航海運の輸送活動量(輸送トン数×輸送距離)のシェアは44%にも及んでおり、特に鉄鋼、セメント、石油、砂利等の基礎資材においては、国内輸送の8割以上を担っています。その他にも、北海道で生産された生乳は、RORO船で関東地区の港に輸送されていますし、ジャガ芋や小麦も小型貨物船で各地から輸送されています。
新聞用の紙も、北海道からRORO船で毎日大量に大都市まで運ばれています。 今、内航海運業界で深刻な問題になっているのが、船員の高齢化です。船員の年齢構成は平成31年3月31日現在、20代:19%、30代:14%、40代:15%、50代:24%、60代以上:28%となっており、50代以上が50%を超えています。10年後には、船員不足により運航できない貨物船が出るのではと危惧されており、若い人にとって、内航船員が魅力ある職業にするための施策が国の主導で検討されています。