第64期生に聞く ~陸自一般幹部候補生(2)~
2020.12.03
「幹部候補生学校をいかに修めるか」
陸上自衛隊幹部候補生学校
第4候補生隊第4区隊
一般幹部候補生 陸曹長 中谷 裕貴
現在、陸上自衛隊幹部候補生学校第101期一般幹部候補生(防衛大学校、一般大等出身者)課程に入校中の防衛大学校本科第64期卒業生、中谷裕貴候補生です。
我々64期生が、3月28日に期待と不安を胸に幹部候補生学校(以下、OCSと言う。)に着校し、早半年が過ぎようとしています。防衛大学校と様々な面で異なるOCSでの生活は、当初こそ戸惑いがありましたが、区隊長を核心とする区隊指導部からの日常起居、教育訓練での指導を通じて、日々自身の成長を自覚し、将来の理想像を抱くまでになりました。それを成し得たのはOCSの特徴である、熱い資質教育にあります。初級幹部として必要な6大資質、即ち「使命感」、「責任感」、「判断力」、「実行力」、「品性」、「体力・気力」が涵養すべきものとして定められています。
その教育の場は多岐にわたり、指揮の実践を基礎とする戦闘・戦技訓練、藤山武装障害走、高良山登山走等の体育訓練、果ては上司、同期とのコミュニケーション、自身の身なり、立ち居振る舞い等の日常起居にも及びます。その全てが候補生の成長を強く促し、幹部自衛官としてふさわしい資質の育成に寄与しているのです。防衛大学校においても学生綱領という伝統ある精神的基盤がありますので、本稿を読んだ今から理想とする指揮官像を抱きつつ、生活の些細な機会に自己を顧みて下さい。
本稿では、その多岐にわたるOCSでの教育においても、特に意識すべき重要なことと、防衛大学校においても共通する事項に焦点を絞り伝えます。
1点目は「指揮官としての将来像の意識」です。OCSでの教育は濃密であり、それゆえの多忙によって目的意識を失ってしまうことがあります。そのような時こそ、自身が多くの部下を持つ指揮官になるというビジョンを持たなければなりません。区隊指導部等の人格の陶冶された自衛官の方々を模範としながら、どのような指揮官を目指すか、そのためには具体的にどのような行動をすべきかということを考えることによって、教育の成果が非常に大きくなります。
加えて、教官や同期の指揮動作を追体験し、冷静に分析して自身ならどう指揮するかを意識する。これにより、指揮官としての資質がさらに成長します。防衛大学校においても、自身の所属する組織に尊敬できる指導教官が数多くいると思います。OCS入校前から意識してみてはどうでしょうか。
2点目は「挑戦」です。指揮官たる者、自ら率先して部隊を率いる積極的な心構えが求められます。OCSの教育訓練においては、自ら行動を起こすべき時、あえて厳しい状況に飛び込むべき時に、周囲の評価を気にしたり、行動後の結果を恐れたりして、渋ってしまうことがあります。そのような時こそ、一歩前へ踏み込む勇気が求められます。
しかし、この勇気は一朝一夕で養われるものでなく、生活の些細な場面における、自身の正義と信条に基づいた行動が決断する勇気を培うのです。一歩前へ踏み込んだ行動、即ち「挑戦」は自身を大きく成長させるだけでなく、周囲の同期をも感化して、区隊の原動力にもなりえます。防衛大学校における学生舎生活や訓練、校友会活動における「挑戦」も、自身の資質を成長させ、OCSでの教育を有意義なものにします。
3点目は「同期と真剣に向き合う」ことです。同期は日常起居、教育訓練、各種練成等すべてを共にする大切な存在です。共に過ごす仲間であるため、本音で話し合える仲間になります。そのため、お互いの長所を高めあう良き関係を築くことが可能になりますが、その一方で、過酷な訓練、困難な課題に直面した際に各々の弱音が露呈します。その際、馴れ合いや甘さ、横暴な態度をとってしまうことは、区隊、相手そして自身にとって非常にマイナスになります。偏ることなく、同期と真剣に向き合った時、初めて団結の根が深まり、組織でしか達成しえない困難な任務の完遂を成し得るのです。
また、自身が追い込まれたときに最も頼れるのが同期であり、防衛大学校、一般大学、陸士、陸曹出身の異なる出自を持ち、さまざまな経歴や価値観を持った尊敬すべき同期からの刺激が自身の見識を広くします。防衛大学校には所属小隊、中隊、大隊、教務班、訓練班、校友会等を共にする多くの貴重な同期がいると思いますので、卒業後も関係が続く同期と真剣に向き合うことが、今後必ず役に立つということをお伝えしたいと思います。
最後に、OCSは候補生が立派な幹部自衛官に成長するための優れた教育体制を保持しています。本稿で伝えます、「指揮官としての将来像の意識」、「挑戦」、「同期と真剣に向き合う」という3点を胸にとどめて防衛大学校、OCSでの教育に励むようにして下さい。本稿が、後輩の成長の一助となれば幸いです。
(2020. 8.31)