今人生、男盛り ~25期(陸)~ (2)
2020.01.03
「海陽学園における次代のリーダー育成」
(はじめに)
2014年8月、40年4ヶ月の陸上自衛隊での勤務を経て退官、縁あって、同年11月愛知県蒲郡市にある海陽学園ハウスマスターとして採用された。自衛隊勤務の中でも、少年工科学校、防衛大学校での寮生活、部隊での服務指導、教育訓練及び災害派遣、ドイツ留学、在墺防衛駐在官及び海外出張、そして連隊長や旅団長といった指揮官経験は、国際社会において活躍できるリーダーを全寮制の全人教育によって育成する海陽学園で活用できるとの思いがあった。
当初はハウスマスターとして、現在はハウスマスター統括兼ねてガイダンス部長(生徒指導部長)として約600人の生徒のハウス(寮)での規律ある共同生活、ハウススタッフの取りまとめ、学園の生徒指導全般に当たっている。ドイツ語講座や富士登山も担当し、正に「今人生、男盛り」の「やりがい」と「充実感」を存分に味わっている。
(海陽学園について)
ご存知の方も多いと思うが、海陽学園は、2006年4月、将来、世界で活躍し日本を牽引できるリーダーの育成を目的に中部地方の有力企業が中心となって設立された。英米では、長い歴史の中で、国の中核を担うリーダー養成校の多くは全寮制を採用しており、海陽学園設立のときから防衛大学校での学生舎(寮)生活を経験した自衛隊OBが関与している。生徒は、全寮制の規律ある共同生活をしながら、中学・高校の6年間かけて基礎学力と人間力を鍛える「全人教育」により世界で通用する力を身につける。
(フロアマスター)
唯一のシステムとして、協賛企業から入社数年目の男子社員約30名が1年余り、フロアマスターとしてハウスで生徒と寝起きを共にしながら生活指導に当たっている。3月の新着任研修では、豊川駐屯地での2日間の生活体験「規律ある団体生活研修」も実施している。彼らは、将来の企業や経済界のリーダー候補生でもあり、だからこそ次代のリーダーである生徒たちを指導できる。フロアマスターへのリーダー教育も私の仕事であり、自衛隊での勤務経験や統率教育が役立っている。強調していることは率先垂範、そして「指導は早めで具体的、仕事は任せるが確認もする。笑顔ではあるが馴れ合いではなく、小さなことも見逃さない。出過ぎず、下がり過ぎず、情報の集まる要点で、激高せず、早とちりせず、出番を間違えず、適時に決心し、責任をとる。」であるが、言うは易し、行うは難しも実感している。
(生徒の日常生活)
生徒たちの毎日は、6時40分起床、7時から点呼、校歌斉唱など、7時20分には全生徒が食堂に集まり、当番生徒の号令で一斉に「いただきます」をする。約600人の生徒が揃って食事を始めることは、将来、社会で活躍するために大切な規律心、思いやり、マナーを身につける時間でもある。食事後授業に向かい、15時ごろにはハウスに帰ってくるとハウススタッフの後半戦が始まる。部活、あるいは図書館やハウスで過ごす生徒もいる。18時から夕食、入浴、買い物。19時半には清掃、その後、各ハウスで夜のハウスタイム(点呼と訓話)が始まる。ハウスマスターやフロアマスターが、生活指導や学習や受験のことばかりでなく、リーダー論や世の中の動きや常識、人生の教訓を生徒に熱く語る。将来の社会での活躍を見据えた刺激に溢れた時間でもある。20時からは夜間学習、ハウススタッフに見守られながら、ラウンジや個室で受験勉強、宿題や予習・復習などをこなしていく。教科の先生が回って来たり、教室で高度な数学や受験向けの授業を受ける生徒もいる。ハウスが彼らの人生の道場である。
(キャリアデザイン)
生徒たちには、大学は通過点で、社会でどのように活躍したいかを見据えて学習や受験に取組むことを強調している。毎年、トヨタ、JR東海、中部電力などの協賛企業への企業訪問(高校生)や工場見学(中学生)、フロアマスターたちの経験や知識を活用した「ソサイエティ」と呼ばれるキャリア講座や教養講座(大学・学部、海外経験、企業や業界や仕事の紹介、趣味の講座)などもある。企業訪問では、エントリーシートを書かせ、就職活動さながらの体験をさせて訪問企業を決定する。訪問先では、企業戦略を学んだり、商品開発の疑似体験など社会人の先取り経験ができる。
年に5.6回開催される特別講義では、トヨタ自動車の豊田社長はじめ、ノーベル賞受賞者など世界をリードしているリーダーや研究者などからの講義を聞いて生徒たちは夢を育んでいる。
(リーダー及びリーダーを支える経験)
海陽学園では、生徒に様々なリーダー及びリーダーを支える経験を与えている。ハウス自治の推進役としてハウス長やフロア長といったハウス幹部(学期毎の交代)、選挙で選ばれる生徒会長、学校行事としてのスポーツフェスタ、海陽祭(文化祭&演劇祭)、時事調査発表会、3年生の伊勢神宮研修、5年生の富士登山などでは生徒の実行委員会が立ち上がる。テーマ、生徒の組織化、内外との調整、予算、調達などの計画・実施、振り返り、生徒たちは日ごろハウスや教室で培った人間関係を最大限に活用し、教職員を巻き込みながらイベントの成功に向けて取り組んでいる。勉強は苦手でも、リーダーシップやコミュニケーション能力が高くイベントや部活で活躍する逞しい生徒たちの将来の活躍も期待している。
(多様な生徒たち)
科学の甲子園やキャリアの甲子園で全国優勝したり、理科や数学オリンピックなどで日本代表として世界大会でメダルを勝ち取ってきたり、模擬国連日本代表として国連本部での世界大会に参加する生徒たちが育っている。東大、京大、国公立大医学部や欧米の有名大学へ進学する生徒もいるが、パテシエを目指したり、芸大に進学したり、部活のスポーツ推薦で進学する生徒もいる。防衛医大や防衛大学校に進学する生徒も出てきた。私も毎年12月には、防大、防衛医大1次試験合格生徒に面接指導をしている。今年は防衛大卒業の陸上自衛官第1号が誕生した。
(本当に伝えたいこと)
自衛隊という組織の力の源は、人を大事に育て、人と人を繋ぎ、すべての人の持てる力を組織化して任務達成に向けて動かすところにあると思う。人は人と繋がって、人を助け、人に助けられ、互いに協力しながら、生かされていることを自覚し感謝することが大事だと思う。生徒たちには、その上で、人と人を繋げ、社会や組織をリードしていく人材になって欲しいと思う。私自身が小原台で学んだように、海陽学園を卒業した生徒たちが、「人生に必要なことは、ハウスで学んだ」と言ってくれることを期待している。そして海陽学園卒業生の財産は、防衛大卒業生のように6年間寝食と苦楽を共にした同期生の横の絆と先輩・後輩の縦の絆である。卒業生はまだまだ少ないものの企業、医者、会計事務所、コンサルタント、公務員、記者など様々な分野で活躍し始めている。企業からフロアマスターとして海陽学園に戻ってきた1期生もいる。海陽学園の卒業生たちが、競い合い、助け合いながら世界で活躍してくれる姿が楽しみである。