今人生、男盛り(23期ーその4)
2018.01.19
空23期 米沢 敬一
平成24年7月26日付を以て航空自衛隊を退職し、俗に言う"まる防企業"にお世話になっております。
退職から5年半が経過し、東京で単身赴任継続中(東京への出稼ぎ労働者)です。
今回は貴重な機会を得ましたので、私がライフワーク的に取り組んでいるパイロットあるいは航空従事者へのLASIK適用に係わる正しい知識等の普及についての活動の一端を紹介したいと思います。
私がこうしたLASIKに係わる活動に取り組むきっかけとなったのは、現役時代、私の部下のパイロットが視力矯正手術(LASIK)を受けていると言うことで、パイロットの資格を失うという事例があったとこ
ろから始まっています。
当時パイロットのLASIKは認められておらず、優秀なパイロットとしての実績を持つパイロットの資格を奪うことになったのです。当時の航空自衛隊航空身体検査規則では、「近視矯正手術(放射状角膜切開術
等)の既往がないこと。」という基準がありました。相当な飛行経験を持ち、パイロットとして組織の戦力として十分活躍してきて、これからも相当程度、戦力として組織に貢献できるであろうと思われる優秀なパイロ
ットが、その資格を失ったのです。
優秀なパイロットを育てるには長い時間と多額の経費を投入しての教育訓練が必要であり、このパイロットを失うと言うことは、組織にとって大きな損失ではないかという大きな疑問符を持ったのがきっかけです。
そして、たまたま、私の親戚にLASIKをはじめとする視力矯正手術に係わる最新の治療を実施している眼科医療法人の経営に携わる者がおり、またその法人が、米海軍にLASIKを導入するプログラムを主導し
た有名な海軍の眼科医と技術提携をしていた関係もあって、米軍の視力矯正手術に係わる最新の情報を入手することが出来たことが大きなきっかけでした。
当時米軍では、既にパイロットに対してLASIKの施術が許可されており、なおかつ国費を投入して軍の病院において無料で施術が受けられるようになっていました。どうして日本の自衛隊ではだめなのかと言う素
朴な疑問を持ち、米軍の関連情報を収集するところから活動が始まりました。
航空自衛隊においても、パイロットソースの募集対象の若者の視力低下が問題になっており、航空身体検査合格基準の裸眼視力を0.2まで引き下げるという処置をしておりました。この若者の視力低下傾向は、今後
も一段と進むであろうとの考えが一般的となっており、既に飛行隊には眼鏡をかけたパイロットが、珍しくなくなってきていました。一般的には、視力の弱い人は、年齢を重ねる毎に更に視力が低下することはままある
ことで、毎年実施される航空身体検査でこの視力基準を下回ると航空身体検査不合格となり、パイロットの資格を失うことになります。長きにわたる組織の投資が無に帰し、組織の戦力低下につながる大きな問題です。
このようなパイロットにLASIKを適用することで、組織の戦力保全がはかれるのです。
既に米軍ではLASIKが許可されているわけですから、自衛隊に導入するのに大きな問題はないと考え、米軍関連の各種資料を収集して衛生官等に提供し、当時の航空衛生担当(眼科医)等の努力により、平成25
年に航空自衛隊は、「角膜屈折矯正手術を受ける航空従事者の管理要領に関する試行について」という試行通達を出して、パイロットのLASIK施術に関する道を開くことになったのです。
平成27年には、この通達を更に発展させ陸海空自衛隊で「航空身体検査受験者の角膜屈折矯正手術管理要領に関する試行について」という通達を発出し、これからパイロットコースに入る人たち(20歳以上対象)
にも適正な管理の下にLASIKの施術の道が開かれました。20歳以上の防大生においても視力が基準以下であってもLASIKを受けてパイロットの道を目指すチャンスが出来たのです。
航空自衛隊は、来年には三沢基地にF-35戦闘機を受け入れ、部隊建設が始まります。このF-35の特徴は、右の写真にもあるHMD(Helmet Mounted Display)をかぶってヘルメットのバイザー上に映し出され
る各種情報を見ながら飛行機を操縦するという、画期的な仕組みになっています。当然こうした装備を扱うには、眼鏡を装着することがハンディキャップになることは容易に想像できると思います。
最大の戦力発揮のためにパイロットが希望すれば、こうしたLASIKの施術が自衛隊の病院等において無料(国費補填)で受けられる環境を整えなければいけない時期が来ているように思います。
米国では、LASIKの次の技術として、ICL((Implantable Collamer Lens)後房型有水晶体眼内レンズ、分かりやすく言えば眼内コンタクトレンズ)手術がすでに海軍や陸軍の兵士(特殊部隊の兵士、空挺部
隊の兵士等)に適用が許可され、パイロットをはじめとする航空機搭乗者にも適用すべく研究が進んでいます。数年以内に適用が認められるでしょう。
このICLは簡単に言えば目の中にコンタクトレンズを入れてしまう施術で、LASIKのように角膜を傷つけることもないし、取り出して交換することも出来ると言う進んだ施術です。こうした新しい技術がこれか
らどんどん開発されていくことでしょう。
パイロットは航空戦力の大きな要素であり、この保全は組織としても積極的に取り組まなければならない事項です。パイロットだけではなく、パイロットをはじめとする眼鏡をかけていることが、戦闘場面で大きなハ
ンディヤップとなるような職域の自衛官(空挺や普通科あるいは航空救難に活躍するメディック等々)には、自衛隊病院等公的な機関で国費によるLASIK(ICLを含む)等の施術が受けられる態勢を整えていかな
ければならない時代に入っているのではないでしょうか。
眼科医療法人が実施する相談会を、出来るだけ多くの基地や駐屯地で実施できるように、ボランティア的にサポートをしながら積極的に情報提供に努め、適正な情報をLASIK等を希望する自衛官等に提供できるよ
うに活動を続けております。
まだ、しばらく東京での単身出稼ぎ労働者の生活が継続しますが、自己の老眼鏡の度数進行に適切に対応しながら余暇時間を活用してこのような活動を疲れない程度に続けていきたいと思っています。