第61期生に聞く(その3)
2018.01.18
海上自衛隊幹部候補生学校
第1学生隊 第5分隊
幹部候補生海曹長 神作 友陽
去る3月19日、4年間の思い出を胸に防大を巣立ったあの日から、早くも半年以上の月日が過ぎました。
江田島の海上自衛隊幹部候補生学校(以下、江田島)に着任以来、球技競技会、8マイル遠泳、通信競技会、
遠漕競技会のほか、帆走・幕営訓練や陸上戦闘訓練など様々な行事を乗り越えてきました。これ以外にも、弥
山登山競技や短艇競技、持続走競技も控えており、江田島ではさながら防大四年間を凝縮したような密度の濃
い日々を送っています。帝国海軍から続く伝統あるこの江田島の地で、私たち防大61期生は、初級の幹部自
衛官として必要な知識及び技能を習得し、かつ強靭な体力と精神力を養うために日々修養を続けております。
こうした忙しくも充実した日々を送るなかで、防大で過ごした日々が懐かしく思われる日もあります。
防大では「自主自律」が建学の精神として謳われており、全学生が防大生として在るべき姿を追求しながら
日々の修養にあたっていることと思います。私自身、学生隊学生長としてこの言葉の意味するところを考えな
がら勤務にあたっていました。しかし、江田島での生活が始まると、自主自律を追求していた防大での日々に
疑問を感じるようになりました。なぜでしょうか。それは江田島での生活が極めて他律的なものに感じられた
からです。
江田島には幹事付と呼ばれる若手士官が、候補生の服務指導を厳しく行っています。毎日のベットメイクに
プレス、清掃といった細かい起居容儀を指導されることで防大一学年時の記憶が蘇ると同時に、幹事付に指導
されるか否かが候補生の行動基準になっていました。この時点では、候補生としての在るべき姿を追求すると
いう意識が希薄になっていたのです。しかし、学生長として勤務していく中で、江田島での生活においても、
自主自律の精神が存在していることに気付かされました。例えば、幹事付から行進の練度が低いため補備訓練
を行うという指導を受けたことがありました。入校当初はその指導通りに、幹事付が主導する補備訓練を受け
ていました。これでは行進の練度不足という問題を候補生の手で解決したことにはならず、幹事付の手によっ
て強制的に補備訓練をさせられたという意識が残ります。しかし、候補生の中から行進訓練を自分達で実施し
て練度を上げようという意見が次第に挙がるようになりました。この意見を踏まえて、私たちは自分達で行進
訓練の計画を立案し、それを幹事付と調整したうえで実施しました。これは自主自律の一つの形態であると考
えます。そして、候補生に任せておいても在るべき姿を追求できると判断した幹事付は、それ以降、行進に関
して他律的な指導を行わなくなりました。
このように、江田島においても自主自律は追求されているのです。幹事付に指導されたくないという矮小な
考えに埋没するのではなく、より高次の段階から物事を捉え、候補生としての在るべき姿は何かを追求してい
く姿勢が肝要だと考えます。そして、この自主自律の姿勢はそのまま部隊配属後にも活きるものでもあるので
す。
昨今の国際情勢から、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは誰の目にも明らかです。そ
れは即ち、私たち候補生が江田島を巣立ち部隊に着任すると同時に実任務に就くという状況が考えられるとい
うことです。中国による攻勢的な海洋進出や北朝鮮による相次ぐミサイル発射という緊迫した国際情勢におい
て、部隊を率いていく士官には冷静で正しい情勢判断を行い、最適な決断を下すという重責が課せられます。
そうした緊迫した環境下で、自分を取り乱さずに士官としての務めを果たすには、防大時代から学んでいる自
主自律の追求が必須です。士官として自分はどうあるべきなのか。その理想像に近づくためには何をすべきな
のか。問題を抽出し、理想との乖離を分析して適切なアプローチを講ずるという問題把握能力と企画力は、一
朝一夕で得られるものではありません。防大在学時から、自身の生活を振り返り、理想に近づけていくための
努力を惜しまない日々の自己陶冶が求められているのではないでしょうか。
防大生の皆さんには、今一度、自分が防大生としてどうあるべきで、何をすべきなのかをしっかりと考えて
みてほしいと思います。抽象的で難しいと感じる場合は、幹部自衛官としてどのような仕事をしたいのかとい
った具体的な襲来の姿をイメージしてみてください。そうした理想像に近づくための努力が皆さんを着実に成
長させ、将来幹部自衛官として大事を成すに至るのです。教育・訓練、学生舎生活、校友会活動、その全てに
妥協することなく真摯に取り組み、人として大きく成長してほしいと思います。防大での修養の日々は、幹部
候補生学校やその先のステージである部隊でも必ず活きてくると私は確信しています。成長した皆さんと部隊
で再会できるのを楽しみにしています。