29年度武藤副校長に聞く
2017.03.17
防衛大学校副校長(企画・管理担当)
武 藤 義 哉
昨年7月1日に防衛大学校副校長(企画・管理担当)に着任して、2~3か月もすると、各地で行われる防大生の訓練視察や校内の施設見学等を通じて防大というところの様子も少しずつ分かってきた。しかしまだ一つ謎に満ちた領域があって、それが学生舎だった。学生舎とは言うまでもなく、防大生が集団で生活する、いわば寮である。したがって、指導教官等を別とすれば、教職員は普段その中を見ることはほとんど無い。しかし、実は「学生舎研修」というとてもよい企画が年数回実施される。はっきりしたことはわからないが、1999~2000年頃開始されたようで、簡単に言えば教職員が一晩学生舎で学生と寝食を共にし、彼ら彼女らがどのような生活を送っているかを知ろうというものである。
私にとってこれに参加する1回目の機会が11月初めに訪れた。初めて垣間見る世界であるので、楽しみであると同時に、少しく緊張したのも事実である。「今夜は学生舎に泊まる。」と家内に朝言ったら、「ハリー・ポッターの世界ね。」と言われ、返答に困った。スケジュールとしては、夕方の校友会活動の見学、入浴、学生食堂での夕食、清掃・日(にっ)夕(せき)点呼視察、学生との懇談、2230就寝。翌朝は0600起床、0605日(にっ)朝(ちょう)点呼・清掃視察、学生食堂での朝食、朝礼・課業行進視察といった流れである。
わずか一晩の体験ではあるが、この研修を通じて改めて感じたことは、日本広しと言えど、防大は「ここにしかない」学校だということである。個別にとらえれば、どこの大学でも部活動はあるし、学生食堂もある。学生寮のあるところもあろう。しかし、二千人の学生が同じ時間に一斉に校友会活動をし、一斉に入浴し、一斉に食事をする。そうした基本的な生活のほか、水泳競技会や棒倒しなど各種行事へむけての全校的な盛り上がりもある。そのような、同年代の若者たちの、大きなうねりのようなものの中に4年間身を置くということ、これはなかなか他の大学にはないことである。
そう言うと、なじみの無い人には画一的で息のつまる生活ではないかと思われるかもしれない。事務官であり防大出身ではない私自身も、防大勤務になるまでは、正直若干そういったイメージを持っていた。しかし、このときの学生舎研修において、更には今年1月にあった2回目の同研修において、夜に実施した学生との懇談では、多くの学生が、入学当初には規律の厳しさにとまどいを感じたけれども、今では防大に大いに魅力を感じている、という趣旨のことを口々に発言していた。その魅力の第一は、皆が協力していろいろなことをやっていく防大の生活の中で培われる、先輩後輩、同期、同部屋などの人間関係の濃さ、団結の強さだとのこと。現代の一般の学生生活、そして社会生活においても、もしかすると失われかけているかもしれないある種の価値が、まだここにはしっかり息づいているということであろう。
2回目の学生舎研修では、ちょうど学生の寒稽古の時期に当たっていたので、朝0500に起床して、銃剣道の寒稽古を見学した。外はまだ真っ暗で、星も出ている。稽古の行われる体育館はとても寒い。そうした中、木銃を手にきびきびと練習する学生たちの姿も印象的であったが、また、こんな早朝から学生のために指導に当たっている教官たちの献身的な関わりがあってこその防大だ、という思いをも深くしたものである。
今年秋の防大開校祭のテーマは「昇華~ここにしかないもの」に決まったが、「ここにしかないもの」をもっと一般の人に、そして防大入学に関心を持つ若者たちに、知ってもらいたいと思っている。