今人生、男盛り(22期ーその1)
2017.01.24
《はじめに》
深い社叢(しゃそう)の中に身を置いて神と人との「仲とり持ち」として奉仕していますと、航空自衛隊とは異なる充実感と 同種の充実感とを日々感じています。現在、石上布都魂神社の宮司として地域の伝統、文化の継承に微力を捧げています。今回、貴重な機会を頂きましたので、元自衛官の神職の活動を紹介させていただきます。
当神社の由緒は、日本書紀に「素盞嗚命が八股の大蛇を退治した時に使用した剣が祀られている」と記載されています。従いまして創建は二千年以上前と考えられます。また、式内社かつ一宮であり、最近では朱印を求めて多くの方が参拝されるようになりました。既に防衛大学校同窓の方々の参拝があり、現役時代の話題に盛り上がります。
《定年後の活動》
定年を迎えるとすぐに神職の道に入りました。私の実家が代々宮司を務めていることもあり、地元岡山の神社界に温かく迎え入れていただきました。神職の多くは、自衛隊に対し好意的に興味を持っています。神職の講習等で防衛に関する講演を依頼され、基地見学の調整も依頼され、その都度、自衛隊の広報官の気持ちで可能な限りより深く自衛隊を認識してもらおうと努力しました。神社界以外の経済団体、ロータリークラブ等からも講演依頼があり、交流の輪も広がりました。これも自衛隊勤務の御蔭と感謝しています。
当神社が所在する地域は自然に恵まれ環境の良いところですが、文化・教養という点では都市部に遥かに及びません。何か地元の人々に貢献できることはないか、著名人を招聘して講演などを企画できないかと考えていたところ、平成27年に航空自衛隊OBであり防衛大学校同窓である油井亀美也宇宙飛行士が宇宙ステーションに滞在するということが報道されました。早速、地元赤磐市の行政、議会の要職に油井宇宙飛行士を招聘して講演会を開催してはどうかというアイデアを打診したところ、赤磐市から積極的に講演会を企画したいという回答がありました。それからは、ボランティア・アドバイザーとして側面から支援し、平成28年7月念願の「油井亀美也宇宙飛行士講演会」が実現しました。多くの市民が喜んで講演会に参加し、子供たちが会場の前列を陣取って目を輝かせながら油井宇宙飛行士に質問し、握手する状況を見て、裏方として久しぶりに浸った満足感でした。この事業には、いくつかの幸運がありました。最も大きかったのは防衛医科大学校第1期生で航空自衛隊OBでもある緒方克彦さんが宇宙航空研究開発機構の有人宇宙ミッション本部総括医長に在職され、様々な助言を頂いたことでした。現役時代から同期会を組織していたことの御蔭と同期諸兄に改めて感謝申し上げます。
《神道・宗教(祈り)について》
神社の宮司となって改めて感じることは、神社の氏子組織が、大災害等の非常時に極めて有効な組織であるということです。東日本大震災でも神社が地域住民の核となって救護がなされた地域が多いと聞いています。それぞれの地域の自主防災組織と言えるかもしれません。ご承知のように氏子組織は、常に地域の住民で組織化され、年に数回神輿や獅子舞を伴う祭が行われます。江戸時代の武家社会でも行われていたことは、謀反の疑念を持たれないように戦の訓練を行っていたようにも考えられます。「けんか祭」などはその典型かも知れません。今後の日本社会においても氏子組織は有益であり、微力ながら氏子組織の充実、強化に努力したいと考えています。
日本人は、戦後教育の影響で諸外国に比べ宗教(祈り)に縁遠くなっています。一方、諸外国では依然として宗教(祈り)の役割は重く、海外での活動が増しつつある自衛隊は宗教(祈り)に関わる行動を避けられないのではないでしょうか。多くの国の軍隊に宗教者が同行するように、自衛隊にも同種の人材の帯同が必要となるでしょう。
短い神職勤務ですが、「祈り」は人々が人類の知識・理論で整理できない領域に接するときに行うように思えます。例えば、病気になり余命を宣告された時、極めて重大な試験・試合・仕事に臨む時、子供を授かりたい時などが挙げられます。
千年以上前に疫病で大量の死者が出た後には、「祇園祭」「祇園様」の神事が行われるようになりました。9月の台風シーズンには、「荒神様」の神事が行われています。医学や気象学の未熟な時代には、その理屈を知らずただ神に「祈る」という行為が行われました。
最近では、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」帰還の際に、その責任者が無事の帰還を祈って岡山県北部の「中和神社」に参拝されたそうです。かく言う私も平成21年4月に高射部隊指揮官として自衛隊初の弾道ミサイル対処の任にあった時には、人知れず心の中で祈りました。
将来、自衛隊が宗教者を任務遂行に必要とする時にはお役にたてることがあると思っています。私が承知しているだけでも自衛隊OBの神職は複数人います。宗教を超えて自衛隊OBの宗教者を探せば、更に増加するでしょう。そろそろ自衛隊OBの宗教関係者ネットワークを作り、現役の皆さんの支援態勢を整えなければならないと考えています。
自衛隊退職から約30年間を神職奉職と想定し、年甲斐もなく世のため人のために仕事を探しては自分を追い込んでいます。皆様のご健勝を祈念申し上げます。
【油井亀美也宇宙飛行士講演の際、花束贈呈を行う物部氏】