同窓生は今

今人生、男盛り(21期)(その3)

2016.02.05

  異国の地で思う                      空21期生 小野田 治

DSC00196a.jpg自衛隊を退官して早3年余が経過した。再就職して間もなく、米国のハーバード大学に客員研究員という肩書で2年間勉強する機会を得た。自衛隊を退官した当時は「これで日々の緊張から解放される」と喜んだのも束の間、今度は得意でない英語と異なる生活文化、そして何より生まれて初めて体験するアカデミックな生活に緊張する日々を送ることになった。「防大での生活はアカデミックではなかったのか?」と問う読者もおいでになるだろう。少なくとも私の防大生活の実感は、運動部の合宿のようなもので、勉強もしたにはしたが、厳しい学生舎生活と校友会活動を含めてアカデミックとは程遠いものであった。

ハーバード大学は、米国東海岸のボストン市とケンブリッジ市に所在する4年制の学部と大学院をもつ総合大学である。1636年に創設された米国で最も歴史のある大学で、学部生約7千人、大学院生約1万4千人、教授陣約4千5百人、スタッフ等が1万1千人、敷地面積は約2千万㎡(東京都港区の面積とほぼ同等)の巨大な大学である。大学が運用する基金は約280億ドル(3兆3,600億円)、ノーベル賞受賞者は44人に上る。

DSC00897a.jpg私が所属したのはアジア・センターという部門で、アジア地域に関する政治、経済、文化など、あらゆる分野の研究者が多数所属している。著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」で、日本でもよく知られるエズラ・ボーゲル教授が同センター設立に尽力され、初代のセンター長となった。同教授の招聘によって、秋山元防衛事務次官に続いて退職自衛官が客員研究員として過去10年余り、現任の渡部元陸将を含めて、9代にわたって同センターに所属し、我が国の安全保障・軍事政策、戦略などについて発信を続けている。

米国の教育現場を一言で表現するなら、討論によって他人の考えを理解しながら自分の考えを形成していくというものだと思う。例えば、90分のセミナーでは、説明者が40分前後話し、残りの時間は質疑応答と討論である。授業では先生ごとにやり方が異なるが、授業中の質問回数やその内容を評価し、全体評価の20~30%とすることが多い。私が聴講した授業でも、初回に試験、小論文作成、質疑の回数や内容といった評価基準の比重を数字で明示していた。従って質疑の時間になると一斉に手が挙がり、質疑や討論が盛り上がる。終始黙って授業を聞いてノートを取り、試験に全精力を集中するという、私の学生時代の文化とはあまりにかけ離れており、逡巡する日々が続いた。増してや、説明者の英語が良くわからなかったり、質問しようにも英語が出てこなかったりと、教育文化以前の問題に悩まされることが多かった。このような悩みも「窮すれば通ず」で、自らが発表する機会を得て度胸だけは付き、様々な方面から声をかけて頂いて近郊の他の大学やワシントンDCのシンクタンクなどにも出かける機会が増えていった。

そこでしばしば感じたのは、日本人の認識や考え方と、米国の人々のそれらとの違いである。特に顕著なのは、先の戦争をめぐる認識、いわゆる歴史認識である。例えば、いわゆる「慰安婦」の問題や、「南京大虐殺」の問題について、多くの米国の人々は正しい事実に基づかないプロパガンダを鵜呑みにしている。その点を指摘すると、大学の教授ですら、「日本が行ったのは事実なのだから被害者の数は問題ではない」、「日本は謝り続けなければならない」と言うのには驚くとともに、安倍総理を「歴史修正主義者」と断じるマスコミや専門家の声が大きいことにも驚かされた。日本の正当性を主張する言論は、「修正主義」というレッテルの下にほとんど無視されているように感じられた。日本は敗戦国であり、米国は戦勝国なのだと痛感した。これとは逆に、今日の安全保障に関する認識については、米国の国力低下に伴って日本の役割分担を期待するという声が多く、日米協力関係は着実に進展し相互理解も深まっているように思う。平和安全保障法制についても多くの識者は肯定的な意見であり否定的な意見は少ない。こうした姿は長期間対話を重ねてきた結果であるが、忘れてならないのは、米国は自国の国益のために日米協力強化が必要なのだという事実であり、我が国も国益のために米国を必要としているという事実である。同時に近隣の中国や朝鮮半島、ロシアとの関係改善も我が国にとって不可欠であり、相互交流によって理解を深めていく必要があるのだが、米国を含めて海外での日本の発信力はまだまだ低いと思う。その一因は、高等教育の場で安全保障、軍事が取り上げられていないからであり、憲法、核兵器、歴史認識、領有権問題などの戦後70年間変わることのなかったタブーを打ち破り、国内外で本質的な議論を行っていく必要があると、独り異国の地で思いを新たにした。セミナー.jpgIMG_0914.JPG

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