2024年春までのシルスキー将軍の指揮するウクライナ軍の反攻作戦
2024.05.26
―ウクライナ軍の積極防衛態勢への移行を中心に―
中口廣之 藤本晶士、久保田穣一
はじめに
2023年6月からのウクライナ軍の反攻作戦は、ウクライナ軍の攻勢作戦の停滞に対して、ロシア軍は攻勢作戦への転換という攻守逆転の戦況となった。ウクライナ軍は、この危機に際しシルスキー将軍の主唱する積極防衛という戦略のもとに戦局の打開を期し、一方ロシア軍は消耗戦略での作戦目的の達成を期した。
本稿はウクライナ軍の冬季~春季の間までの積極防衛への移行を中心に観察して、AI等を利用してシルスキー将軍の指揮するウクライナ軍の作戦経過の実態を可能限り詳細に把握することを狙いとしている。
尚、積極防衛戦略を理解するため、ウクライナ軍とロシア軍の国力比等(2020年度)と陸上作戦実施上の背景 (2024年度)を過高断面的に一瞥したい。
ウクライナ ロシア
・国土面積等 約60万㎢ 1700万㎢
・人口 約3700万人 約1億4500万人
・GDP 1550億ドル 1兆4700億ドル
・国民の士気 国防への士気は高い 国防への士気は冷めている
・国防予算 52億ドル 610億ドル
・陸上防衛線 東部ロシア国境 約2500㎞ 同左国境 約2500㎞
スロビキンライン約800km 同左約800km
北部ベルラーシ国境 約1000㎞
計 約4300㎞ 計 約3300㎞
・戦争続行期間 長期戦化(現在約2年) 同左
・陣営国家群 西側陣営(米英、NATO諸国等) 東側陣営(中国、北鮮、イラン等)
武器等の共同支援体制 同左の連合支援体制
・兵力等 兵数劣勢、士気は高い 兵数優勢、士気は低い(傭兵化)
長期戦の疲弊大
・住民の避難 大半は国内外避難している 住民への配慮(略)
戦場残留住民対策(略)
注1 ウクライナ軍は、米国及び西側諸国の集団支援下のもとであるが、国力の差が大きく、且つ広大な国境線で接する大ロシア軍に対して、概ね対等の防衛作戦を遂行している。国境防衛線3000㎞、対米依存度大等の日本も同様な立場に立つことが予想され、陣営に対する政戦略等においても参考となることが多いと思料する。
注2 両軍の作戦期間はおよそ2年間に及ぶが、これだけ長期間連続して作戦・戦闘をした旧日本軍は、ビルマ戦線、ニューギニア戦線、中国戦線等しかなく苛烈な作戦であると云える。しかし、休養等がいいのかウクライナの兵士国民に悲壮感がなく逞しささえ見える。ウクライナ軍の兵士には2週間から1ヶ月の休暇付与制度、交代勤務制度等があるらしく、旧軍の第一線線部隊には休暇制度はなかったと云われている(AI-bard)、長期戦に対する日本人の心情は、ジャワは天国、ビルマは地獄、死んでも帰れぬニユーギニアと洒落て発散している(現代ビジネス4/2)。
1.ウクライナ軍の積極防衛戦略への移行の背景
反転攻勢におけるウクライナ軍は、主としてロシア軍陣地の地雷等により攻撃が阻止され、且つ多くの装備を失い、また弾薬の不足等により攻撃衝力を失つて攻勢が停滞したのに対し、ロシア軍は優越する砲兵火力と航空火力、その支援を受けた人海戦術による機動打撃等でウクライナ軍を圧倒しはじめ、逐次戦局の勢いを得て全戦線にわたり攻勢に転移した。
周知のごとく、2023年末になると、各正面のロシア軍の攻勢が伝えられ、ロシア軍はこれまでに失った土地を奪還し、ウクライナ軍を押し戻しはじめた(航空万能論 1/3) このため、ウクライナ軍は、これらのロシア軍の人的犠牲を厭わない攻勢をかわすため前線の大部分で戦況は不利となってきているものの(読売12/24)、防勢作戦に移行し戦力の再建を図ろうとした。(読売 12/22)。
更に、この年末時点で、ウクライナ最大支援国の米国等政府の狙いは、主として支援疲れ等のため、完全勝利からウクライナの優位に立つ戦争終結交渉へと変化したと伝えられた(日テレニュース 12/29)、また西側諸国のウクライナに対する軍事支援も先細りの趨勢となった。
これらの情勢を踏まえ、ゼレンスキー大統領はウクライナの国土要塞化と兵器国産により負けない戦いに転換する新たな政戦略を打ち出したが(ウクライナ情勢12/19)、自力転換ができるかどうか前途不明であり、更にロシアがウクライナの態勢を整える時間を与えず攻勢をとる場合、ウクライナはそれに耐えられるかが当面の焦点となった(産経12/19)。 尚、2月9日ゼレンスキ―大統領の軍の刷新方針に基づきウ クライナ軍総司令官ザルジーニ司令官が退任し、後任にシルスキー将軍が就任する と伝えられた(産経 2/9)。シルスキー総司令官は前司令官の戦術転換の方向性を踏襲 して、今後は数に勝るロシア軍に対抗するため無人機や電子戦を重視すると声明し た(毎日 2/10)。 また、地上ロボットの量産も目指しているらしく、これらの兵器の導入は戦場のゲームチェンジャーとしての支配権の一部を握ることになるのかもしれない(Forbes3/21)。
更にロシア軍の全面攻勢に対しウクライナ軍は、要塞陣地を構築してロシア軍を消 耗させ最大限の損害をあたえる方針を示した(KYODO 2/15)。
この軍の刷新については、シルスキー将軍の戦略的価値のないバムフトでの損害無 視の作戦指導、内外からの3軸攻撃の戦力分散等への批判が噴出(毎日 2/10)して軍 内部の賛否が表面化し、対ロシア戦に暗影が感じられる情勢になった。
ウクライナ国内と軍を一枚岩にすることとロシア軍の攻勢を阻止して戦局の打開を図ることがゼレンスキー大統領、総司令官シルスキー将軍の手腕にかかってきたと云えよう。
注1 バムフト(都市)は両軍にとつて、生存・攻防拠点、交通の要衝、高地等の戦略的等の価値が高い重要地域である。
注2 バムフトへの戦力分散となる多軸攻撃は、ロシア軍の包囲を回避する有力な一案でもあった。 またウクライナ軍の第一段の作戦目的がロシア軍の分断であるならば、サボリージヤ正面のロシア軍をバムフト正面に引き付ける効果を期待した作戦であったと理解できる。
シルスキー将軍の後任として、陸軍司令官にパグリュク将軍が就任した(ABEMATimes 3/8)。将軍はゼレンスキー大統領の意を受けて、近く戦況を安定させ年内にも反転攻勢に向け部隊を編成することを目指すと声明した(ロイター 3/7)。
一方、ウクライナへの武器供給が遅れれば、今後2ケ月で重大な局面を迎えるとの見方を示すほど継戦能力が低下し、更に東部の状況が如何に厳しくてもキーウの防衛は依然として懸念事項の一つとの本心を吐露していた(Reuters5/11)
以下本稿においては、陸軍司令官は総司令官の指揮を受ける立場にあるため、ひき続きシルスキー将軍の指揮するウクライナ軍の反攻作戦として論述することをお断りする。
注 前ザルジーニ総司令官は駐英大使に任命された(産経3/8)
2.2024年2月のウクライナ軍の積極的防衛戦略の策定
(1)両軍の作戦兵力
両軍主要兵力の推定(2024ミリタリーバランス)
ウクライナ軍 ロシア軍
装備 新式装備体系 やや旧式装備体系
兵員 88万人 62 万人
(地上兵力) 45.4~75.4万人 56.1万人
戦車 950両 2000両
砲 1360門 3040門
航空機 100機 1389機
注 兵員数は各大統領の発言による人数(毎日1/20、日経 12/20)であるが、いずれも信用しがたい。
(2)ロシア軍の戦略と配置
①ロシア軍の戦略(消耗戦略)
ウクライナ軍の攻撃衝力の減衰等を偵知したロシア軍は、西側諸国からの軍事援助が来る前に全戦線にわたり攻勢作戦を遂行して(中央 日報2/21)有利な態勢造りをするとともに長期戦によりウクライナの国家レベル及び軍骨幹に消耗戦を強要し疲弊させることを狙い、 20 24年以降において次の方針を採用すると推定する。
・ウクライナの国力及びインフラ破壊による継戦能力及び意思の破砕をする。
・ 引き続き全正面にウクライナ軍を圧迫し、特に東部正面は攻勢によりドネック州等の完全制圧と南部正面は防勢作戦により占領地域を確保する。
・ベルラーシ等からのウクライナ西部地域、或いはキュウイ又はハリキウ等(日テレNews 4/6)の地域からの包囲、又は東部正面からウク ライナ軍の背後や弱点からの攻撃を準備する。
・最終的にはドニエプル河左岸の要域に進撃し、ロシア領内への砲撃を防ぐため約10㎞の緩衝地帯を設定する(讀賣 5/12)。
②ロシア軍の配置兵力(推定)
北部戦線ロシア国境等(10万)、東部戦線ドンパス(20万)、南部戦線サボリージヤ等(10万)、南部戦線ヘルソン(5万)、その他予備 等(10万)
計 地上兵力約56万人 戦車約2000両
注 作戦の基本単位部隊は大隊戦術群(BTG).である(JBpress 22.4/15)
(3)ウクライナ軍の積極防衛戦略の展開
①積極防衛構想の策定
予想外の戦況の停滞、西側諸国のウクライナへの軍事支援の減少、特に弾薬の不足に伴い、ウクライナ軍は防勢作戦に転移すると大方の 軍事専門家も予想していたように、ウクライナ軍は積極防衛戦略に移行し、限られた場所での限定的な反撃とロシア国内及びクリ ミヤ半島への長距離攻撃案を模索していた。
反転攻勢の修正案
2024年以降のウクライナ軍の反転攻勢に関する作戦について、次のプランの2案を検討した。
・A案(攻勢案)
ロシア軍の東部の攻勢を阻止しドンパス地方の一部を奪回する。ウクライ ナ軍の他戦線の兵力を東部戦線に転用してロシア軍を包囲撃滅する。
・B案(防勢案)
東部戦線の防御を重点とし、ロシア軍の補給線を遮断しロシア軍の戦力を低下させ、反転攻勢の機会を伺う。
②積極防衛戦略の確定
現状の戦況からB案を採用したと推測され、シルスキー将軍は大躍進できる望みが薄れた現実を明らかにし、現状は積極防衛作戦を既に遂行中で小規模の反撃と陣地防御戦闘によりロシア軍の消耗(戦場損耗)を狙うが、主動権奪回のために攻撃もする等の声明をするとともに人為的優位性を作り出し、最も 脆弱な地点に最適なタイミングで兵力を集中させることが重要と述べた。(REUTERS 1/17、Kyodo2/15 )。
シルスキー将軍が、特に狙っているロシア軍の損耗については、ロシア側の 政治アナリストがロシア軍の22年2月以降の人的損耗は約38万人、戦車約6200両、装甲車約12000、砲9000門の歴史的戦略惨事/27)に陥っていると伝えた。ロシア軍の弱点は戦場損耗にあると認識したシルスキー将軍は、積極防衛により特にロシア軍の損耗を拡大して戦意の崩壊を狙い次のような具体的な方針等を採用したと推定する。
③積極防衛の作戦方針等
・方針
ウクライナ軍は、ロシア軍の攻勢を阻止減殺をするとともに、ウクライナ軍の人的物的防衛作戦基盤を再確立し、2025年に大規模の反転攻勢に再着手する(読売2/21 産経2/23)。
尚、ロシア軍の戦力を分散(東部戦線の兵力を転用)させ、ロシア本土へのドローン等の攻撃によるロシア防空能力をロシア国内へ分散させ(読売/23)、ロシア軍の補給線の遮断及びインフラを破壊する。
・基礎配置等の具体的施策
基礎配置の展開準備にあたっては、アウディシカの戦闘で要塞陣地を構築しなかつたためロシア軍の進出を許した失敗の教訓を生かして要塞陣地の構築を期して各正面ごと積極防衛態勢を確立し、侵攻するロシア軍に対しては、各担当正面の指揮官に作戦を委任する。
注1キーウ防衛作戦と同様な作戦指揮の全権委任をしたと思料する。
注2 ウクライナ軍の要塞陣地線は、都市等の集落を要塞防御化の拠点とし、 塹壕等で拠点を連接する方式と思われる
・北部正面においては、有力な一部でキーウを防衛するとともに、新たなロシア軍の侵攻を抑止するため、ベラルーシ及びキーウ・ハ
ルキユウ等のロシア国境の侵攻抑止の要塞防御の拠点陣地等の構築をする(KYODO4/10 )
注 5月末にロシア軍の攻勢を予想し、ハリキウの防衛拠点に塹壕、シェルター竜の歯等の障害物等を構築する(讀賣 4/11)。
・東部等正面においては防勢作戦に転移する。 東部の防御態勢を強化(拠点陣地・地雷源の構築等)しロシア軍を阻止等する。
・南部正面も防勢作戦に転移するが、ロシア軍の弱点に乗じる好機の攻撃を実施して突破口の拡大を期すとともにロシア軍の撃擾を重視する。
・ヘルソン正面においては南部正面の防勢作戦に積極的に連携させる(Forbes2/5)。この際、努めて東部正面のロシア軍の兵力を吸引する。
・ サボリージヤ北方に総予備を配置し、ロシア軍の空挺攻撃等及び北部等各正面からのロシア軍の攻勢に対処する・・・以下略
注、 総予備の配置は、地形、交通路及び作戦方針等により、各正面にお ける予備隊の配置と連携して第一線に近い前方配置或いは分散配置に努めるとともに各正面の予備隊の位置は統制する。しかしながら、ウクライナ軍の積極防衛態勢には、各種の問題点を抱えていたと思われる。戦場となる地域の特質は平原であり、ロシア軍は全正面にわたり道路を中心軸として兵力を縦長に展開した戦場機動をする攻撃側に有利な地形である。
一方、ウクライナ軍の積極防衛への移行は、概して作戦途中に修正したもので、やや準備期間とか強度に欠けた広正面の平原における塹壕・障害、地雷で補強した延翼型のWWⅠ的な受動的な陣地防御に依らざるをえない。また、両軍の態勢は、いわゆる攻守逆転の戦況になり、特にウクライナ軍に不利な.長期戦となり、両軍の対峙はウクライナ軍が特に狙うロシア軍の損耗拡大のチャンスも少なくなる等の問題点が残る。 このため、ウクライナ軍としては、積極防衛は弾薬不足等の当面の危機回避の作戦であり、攻勢作戦によらなければ、その作戦目的・目標の達成は困難と判断されるため、状況に応じた作戦目的の修正が必要と思料する。
③積極防衛戦略に基ずく基礎配置と兵力(推定)
北部戦線は首都防衛を含む防御態勢(10万)、東部戦線は反撃を含む防衛態 勢(20万)、南部戦線は領土奪還を狙う攻・防勢態勢(10万)、西部戦線(3万)、総予備(15万)、その他戦線(2万)はロシア軍の警戒・監視態勢をとる。
計 地上兵力約60万(推定)/45.4~75.4万人、戦車約950両
注1 ウクライナ軍の東部戦線~南部戦線の第一線の配備兵力は、警戒監視等の対峙部隊と戦闘部隊に区分され、全兵力が常に戦闘に任じているのではない(産経 遠藤特派員3/13)。
注2 作戦の基本単位部隊は旅団である。
注3 サルジーニ体制末期のウクライナ軍には遊兵が多く第一線の戦闘部隊の 兵力は約20万人~30万人と推定されていた
(航空万能論 2/10)。
積極防衛に移行し、再編されたたウクライナ軍 の兵力密度を計算すると、 防御地域は郊外の防御正面250km、縦深50㎞に兵力60万人を配備したとすると、兵力密度約50人のかなりの防御態勢となるが、大雑把な判断をすれば、戦力集中が出来る。ロシア軍の攻撃成功の確率はかなり高いと推定する。
尚、陣地防御における兵力密度とは、防御の機能を保持するために必要な最小限の戦闘員数を示す数値であり、100人/㎢と表すが実は兵力密度より地雷密度の方が重視されている.(AIー Bard|)。但し、この兵力密度の算出については、筆者は別途と厳密な検証が必要と考えている。
注4 独ソ戦のスターリングラード、レニングラードのロシア軍の市街陣地を除いた郊外の地雷原敷設等をした初期の陣地の平均兵力密度は50~100人であった(AI Bard)。
参考として、沖縄戦の平均的兵力密度は100~200名、硫黄島の兵力密度は200~300名と算出しているが(AI Bard)、兵力密度の算定には信頼性が欠け不完全なため検証の余地があると思料する。
④積極防衛戦略での基礎配置の推定要図の一例
注1 イギリス王立防衛安全保障研究所はロシアのE/C(BBC4/13)を次のとおりと予想。
①ハルキユウ等正面
②ドンパス正面
③サボリージヤ正面
④その他(空挺攻撃等)
注2 基礎配置
敵の主要な全ての可能行動 に対応する基礎的な部隊の配置を云う。
この配置から敵の作線行動等に対し戦略展開等に移行して作戦を実行する。
注3 兵力数は本文を参照
3..積極防衛作戦への移行前後時における各正面の主要戦況の実態
(1)各作戦正面の全般背景
2024年2月のロシア軍は、ウクライナ東部のアウディーカ占領を機に東部地域に攻勢のための予備隊を集結させ、西側からの支援が来るまえに全正面から攻勢に出て来ると推測された。その正面は①スラピヤンスク②バムフト・アウディーカ③ロボティネ正面等と判断される。クリンキ正面も可能性があった。更に、ハルキユウ等正面も予期された。3月末の時点で、東部正面にロシア軍の攻勢は顕著となり、スラビャンスクに進撃する公算が高いのではと見積もられた。一方ロシア軍の進撃速度は遅々として いるとの情報もあった(Newsweek 2/21)。
これに対してウクライ軍は、全戦線にわたりロシア軍の攻勢を阻止していたが、砲弾等の不足でロシア軍の突破が不安視され、ゼレンスキー大統は最前線の防空兵器と長射程の兵器が必要との苦境を述べ西側諸国に支援を要請していた(中央日報2/21)。
しかし、弾薬不足については、チェコの協力により、数週間内に(3ヶ月以内)欧州経由で砲弾80~100万発の支援が得られるとの確実な情報 が伝えられた(Forbes 3/3、Comic 3/8)。この砲弾がウクライナに到着するのは6月頃であるが、ウクライナ軍は緊急用に残していた備蓄弾薬を使用し始め、ドローンとの組み合わせで砲兵火力等を増幅し、ロシア軍の損耗を加速していると伝えられ(Forbes 3/20)、更にようやく数百万発の砲弾入手し砲の修理を急いでいると伝えられた(Forbes 4/1)。
注1 ロシア軍の年間砲弾生産能力300万発、ウクライナ軍は同120万発(15Hの砲身命数2~3000発/門) (Kyodo 3/12)
注2 ロシア軍1万発/日使用、ウクライナ軍2000発/日使用(Kyodo 3/12)
注3 一般的砲弾10~20万円/発、精密誘導弾100~200万円/発
また、反攻作戦から積極防衛への移行にともない、ウクライナ軍は前線の複数の地域で、障害物、塹壕、地雷源の防御拠点を構築して防御を固めたと伝えられたが、その陣地強度は後述するように応急的な野戦陣地程度であつたらしい。
このアウディシカの教訓により全面的に要塞レベルの陣地線に再構築されたとしても(AP 3/22)、ロシア軍の進撃を阻止できる大幅な陣地強度への期待はやや無理と判断される。しかし、両軍ともに対峙する消耗戦への傾向が高まったと伝えられた(KYODO3/11)。
注1 反攻作戦の停滞等の最大要因は、緒戦の戦勝によるロシア軍に対する自信過剰と過小評価、更に長大な戦線であれば何処か隙間、弱点があり、またロシア軍の超縦深の地雷源を中心とする陣地の防護力に対する攻撃の手段と方法の準備及び実行力を欠いたことが停滞等の主要な要因であろう。要するに心の油断、楽観的判断等によるものと考えられる。孫子は多算は勝つ小算は勝たずと云う(孫子 始計篇)
注2 一般に1~2週間準備の陣地の強度を1ヶ月陣地の強度に改修することは木造建築の強度をコンクリート建築の強度に改修することと同じで、全面的に改修しない限り期待する陣地強度の増加はのぞめない。
注3 陣地を構築する部隊のスキルと築城用資器材が不足する場合、応急陣地程度しか構築困難である。
一方、プーチンは西側諸国の軍事支援、特に弾薬不足に陥って防勢作戦に転移し、ズルズルと後退したウクライナ軍を見て、戦局の主動権は権は完全にロシア側に移ったと自信を深めており、ウクライナ側に事実上の降伏を求める発言を繰り返し、ウクライナ側のロシア軍の全面 撤退等の交渉条件を一蹴している。米国のシンクタンク戦争研究所は、フーチンの狙いはウクライナを西側から引き離してロシア圏内に置くことと分析した。
この狙いのもとに、ロシア軍は全面攻勢を仕掛けているが、イギリス国防省はアウディシカの大損耗の影響でロシア軍の進撃ペースは鈍化していると指摘し(乗り物ニュース3/23)、専門家の間でも相当期間は勝敗はつかず戦局は膠着するとの見方が多かった(産経2/5)。しかしながら、ロシア軍は、米国の軍事支援の到着依然に攻勢に出ているためウクライナ軍の苦戦が続き、積極防衛作戦への移行後の4月28日シルスキー将軍は、ロシア軍はあらゆる前線で攻勢作戦展開し、いくつかの正面で戦術的成功を収めているとウクライナ軍の苦戦を認めた。(産経4/29)
ウクライナ側としては、Fー16の戦闘加入があれば、ロシア軍の夏季攻勢に際しても再度の反転攻勢で大幅の戦局のばん回が予想されるとの見方もあり(IJI.com2/26 、ヤフー3/7)、ウクライナは年内に1箇飛行隊(12機)を整備すると予測されていた(産経 3/1)。
一方、 ロシア軍のアウディーカの制圧戦においてのロシア軍機の損害が増加した。その原因は、ウクライナ軍の対空防御システム(旧ソ連と西側諸国の各種対空ミサイル)に対してロシア軍機が撃墜されるリスクを犯して地上戦を支援しているからとの指摘もあった(毎日3/3)。要するに、ウクライナ軍のSー300やパトリオット等の|防空兵器を排除しないままロシア軍の地上戦を支援したため、多くの損害が出た(乗り物4/10)。
しかし、衛星誘導装置をつけたロシア空軍の滑空爆弾、短距離ロケット弾は、 戦場決定兵器になりつつあり、ウクライナ軍は壊滅的打撃を受けながらも対抗する兵器がないと伝えられている(Forbes 3/24、4/10)。シルスキー将軍もここ数ヶ月ロシア機による防空圏外からの滑空爆弾の攻撃が激化していることを述べ、またロシア軍の巡航ミサイル等に対する対空ミサイルの支援を要請していた(乗りもの4/6) 。このため、ウクライナ軍は既に導入を決定しているが、賛否両論があり、各国に おいても将来検討すべき大きな問題となろう。尚、6~7月頃には、ウクライナ にF--16の供与がされる見通しである(Reuters5/11)
注 Fー16の導入の賛否論 (CNN、ヤフーデジタル等を参考)について、
・エストニア国防相、米軍関係者、ウクライナ軍一部の批判派
戦争の流れを変える事は出来ない。F16が提供出来る能力は、他の手段でカバー出来る、地上ベースの防空システム、砲兵装備が提供する能力と全然違いがない F16の導入は莫大な経費が必要である(130億円/機)。
・ウクライナ軍のF16導入の賛成派
ロシア軍の戦闘機を撃退して制空権を確保し地上軍を援護出来る。特に制空権の獲得によりウクライナ軍の防空網を超えるロシア軍の射距離60~70㎞の滑空鵜誘導兵器の脅威を除去する(HANKYOREN 3/12)。 特に、ロシア軍機によるFAB-1500の攻撃はウクライナ軍に大損害をもたらすため、制空権権と防空兵器を確保する必要がある(CNN 3/12、JBpres4/9)。現在の膠着状態は砲兵火力が地上部隊の機動ペースに追いつかない。F16の対地火力(HIMARSの300倍)は地上戦闘を容易にする。また、ロシ アのドローン、ミサイルを防ぐことが出来る。
以下、冬季~春季間のシルスキー将軍の積極防衛にかかわる作戦内容が顕著。ウクライナ北部と東部の作戦を観察し、南部作戦等については省略する。
(2)北部正面及び東部ルハンスク州のピャンスク正面の戦況
東部のピヤンスクはドンパス地方の交通上の要衝であり、ロシア軍が昨年の夏以来兵力を集結させていることは、今後のロシア軍の攻勢作戦の拠点或いは策源地等の役割も果たしていると判断される。2024年2月ウクライナ東部軍によると、ロシア軍は東部ハル キウ州ピャンス クに、戦車400 両、歩兵戦闘車600両、砲数百門、歩兵4万人の兵力を集結させている。
ウクライナのシンクタンク防衛戦略センターによると、ロシア軍は3月までにピャンスクを経由してドネツク州とルハンスク州の全域及びハルキウ州の一部を占領する計画と説明していると伝えた。これに対し積極防衛のウクライナ軍は2個戦車旅団等の10個機械化旅団前後の約2万の兵力と戦車約4~500両、砲数百門とドローン数千機で防衛している。ウクライナ側の問題点は砲弾薬であり、射程3㎞のドローン等で対応すると伝えられていたが(Forbes 2/5)、ウクライナ側 としては、射程140キロの米国支援の新型ロケット弾(GLSDB)が頼みの綱になっている(毎日1/31)。更に、この正面からの万が一のロシア軍の新たな攻撃に対応出来るように、ア ウディシカでの教訓を生かし塹壕陣地を要塞陣地へと構築して防衛線を整備していた(AP 3/22)。
4月28シルスキー将軍はロシア軍はあらゆる前線で活発な攻勢を展開し、いくつかの方面で戦術的成功を収めているが東部ハリコフ州やサボロジェ州の戦況も緊迫しているが、ロシア軍の目立った前進はゆるしていないと声明した(産経 4/9)
一方、北部正面は戦況が比較的平穏であつたが、5月5日にロシア軍が東部ハルキウ攻撃のため、ロシア西部のクルスク州に南部サボリージャ州等からの約5万人の兵力を移動させ集結させていると伝えられた(讀賣5/6)。更に、モスクワ管区、西部サンクトペテルベルグ管区からも動員されたらしい(毎日 5/12)。
ウクライナ軍はハルキウ正面の危機に迅速な対応に迫られた。10日、米国国家安全保障会議から、ロシア軍がウクライナ東部ハリキウ州に大規模の攻撃をする可能性がある。ハリキウ近郷での地上攻撃をすると発表した。これまで東部南部で長期にわたり戦闘が展開されていたが、北東部にも戦線が広ろがつた。
ロシア軍の狙いはプーチン大統領が示唆した緩衝地帯の設定(讀賣 3/20)と見積られ、今後数週間は進撃する可能性はあるが防衛線は大幅に突破される可能性は少ないとした(Reuters 5/11)。
一方大規模攻撃かとも判断し、米国は追加の軍事支援を用意していると明ら かにした(Reuters5/11)。ウクライナ軍は、ハリキュウ北方のボルチヤレスクに侵攻したロシア軍の当面の侵攻兵力は装甲車に支援された5000名で進撃距離は国境から5㎞と報じた(CNN5/11、BBC5/14)。13日にAFPは侵攻兵力は同3万人で小規模部隊を広範囲に展開し戦闘地域を拡大し、ロシア軍はハルキウの攻略を目指し攻撃にあたっては半包囲を狙っているのではと報じられる等(航空万能論5/13)、ウクライナ軍の対応を難しく攪乱をしていると報じた(讀賣5/15)。
注1、ボルチヤレスク周辺には、防衛線となる陣地、地雷源等が無かったと囁かれ(BBC5/13)、又は拠点連接の隙間を突かれたのか北部司令官は更迭された(讀賣 5/16)。
注2 ロシア軍の半包囲の狙いがハルキウの市街戦を避ける.のであれば孫子の囲師必闕戦術かも知れない。
ロシア軍の攻勢に対し、この地域担当する領土防衛隊は耐えられず有利な陣地への移動するとしてボルチヤレスク等から撤退をした(CNN 5/15)。しかし、ウクライナ政府側等は侵攻したロシア軍にはハリキュウを制する力はないと判断していたと云われる(euters5/15、讀賣5/16)。
ウクライナ側は、ゼレンスキー大統領の外交予定を延期する(CNN 5/15)等のかなり混乱していたが、ロシア軍を国境外に押し戻す作戦をつづけるとの所定の対応策を迷わず決定して装甲機動力装備のウクライナ軍予備隊を投入した(Forbes 5/17)。
それらの必死の反撃作戦(讀賣5/16)により戦況は安定化した。ゼレンスキー大統領もロシア軍の前進を或る程度食い止められるとの認識を示し、米シンクタンクの戦争研究所もロシア軍の進撃は減速したと分析したように(産経5/16)、ロシア 軍の攻勢は失速した(Forbes5/17)とするが、ロシア軍は約70㎞正面、深さ10㎞の地域を占領している(朝日 5/17)。
注1 AI bardのロシア軍の北部侵攻に対する代表的E/C判断を紹介する(AI bard)
①緩衝地帯の設定②ハリキウ州の全域制圧③ドンパスへ進撃する。結論は?
ウクライナ側がロシア軍の狙いをどのように判断をするか興味のあるところである。戦況は安定したとは云え、この場合ウクライナ 軍にとって最悪の判断を するのがベストかも知れない。
因みに、約8万人のロシア軍が戦闘しているチャシウヤルは、ハリキュウから道路距離は200~300㎞、ロシア軍の1日当たりの 戦場機動距離を100~200㎞とすれば、二正面の戦況は連鎖し、かなり重大な脅威をウクライナ軍に与えるであろう。米国シンクタンク戦争研究所は、ロシア軍がハルキュウ州でウクライナ側に圧力を掛けながらチヤシウヤルの掌握に向けた動きを強めているとの見方を示した(ウクライナ情勢 5/19)
ボルチヤレスクのロシア軍の外線作戦の利と戦術的奇襲により、ウクライナ軍を完全に圧倒する作戦をすると予想される方向に動く可能性があった。ロシア軍は、スームイ等の次の越境作戦(航空万能論5/14)が可能と危惧された。 CNNは、特に兵力不足のウクライナ軍はロシア軍の越境攻撃で次の弱点をさらけ出したと指摘し(CNN 5/3)、アメ リカの軍事支援の遅れは、ウクライナの厳しい判断を招くと論評している (CNN5/3)。
・ロシア軍は国境沿いの60㎞正面に4箇以上の大隊規模の部隊が多正面の縦隊攻撃をしている。
・ロシア国内には予備師団、北部の前線近くには新たな集団を編成し、突破部隊の追加投入等をすることができる。
・数百キロ離れた複数地域を攻撃し、ウクライナ軍の防衛線の引き延ばせる。
・ウクライナ軍の人員武器の不足対処と防空体制等の追加支援等には数週間かかることを知っている。
・チヤシウヤルのウクライナ軍の兵力はロシア軍の10分の1で砲弾は少なく.空の防衛力は0であり、これを失えばウクライナ軍の弱点は更に増す。
・前線の後方の防衛ラインの拠点は準備されていないし、重要地域の拠点はあまりにもすくない。
5月17日のウクライナ情勢によると、プーチン大統領は、現時点ではハリキウの占領計画はない、国境付近の緩衝地帯の設定と中国側に説明した(ウクライナ情勢5/17、讀賣5/18)。米国専門家は、ロシア軍の攻勢は深刻であるが州都ハリコフ東側にある防衛ラインに到達し到達していない。ロシア軍の狙いはハリキュウに向かい前進して砲撃で脅しをかけ、ウクライナ軍を吸引することにある。本来ロシアの狙いは東部ドネック州の占領にある。今後も、ハルキュウ州のとなりにあるスームイ州等の国境から攻撃すると分析した(ウクライナ情勢5/18、Reuters5/15)。
シルスキー将軍は、今後ロシア軍がスームイ州を攻撃すれば、ハリコフの北100㎞の地域に戦線が形成されると述べた(Reuters5/18)。兵力劣勢のウクライナ軍にとっては益々の重荷の対応となろう。この苦境をどのようにして乗り切るかは決して他人ごとではない。20日米国国防長官は改めてロシア軍の攻勢に危機感を示してい た(ABEMA 5/21)
(3)東南部ドネツツ州のアウディーウカ正面の戦況
アウディカは東部ドネツク州の小さな町で、ウクライナ軍にとってドネツツ州正面への重要な交通の要衝であるとともに、将来ウクライナ軍の反攻拠点となる要域である。反面ロシア軍の防衛線が薄い弱点地域であり、反面ロシア軍の陣前反撃等の拠点ともなる地域である。このため、ロシア軍としては政治的にも早期に奪取する必要があり、南北の2正面からロシア軍は人的損耗を厭わない歩兵主体の人海戦術で攻撃を続行していたが、戦車の損耗も多く数百両と見積もられた(FORBES 2/13)。
これに対し、ウクライナ軍は、数個旅団を増援しているが砲弾の不足にも悩まされ、2月時点では陥落の瀬戸際にとなっていたが(Forbes 2/8)、バムフトの攻防同じようにゼレンスキー大統領の命によるものか不明であるが、シルスキー総司令官は東部の唯一の予備部隊をアウディカの防御戦闘に投入し(ウクライナ情勢2/13)、ロシア軍の大きな消耗を期したが、恐らくゼレンスキー大統領の意に反し、17日シルスキー総司令官はアウディカからの撤退を表明した(News week 2/17)。
この結果、ロシア軍の東方からの包囲を阻止する役割を果たしていたバムフトとアウディカの2拠点を失ったことになり、ロシア軍がドンパス地方で優勢の態勢を占めた(産経 2/17)。ロシア軍はアウディカの戦闘で戦力を使い果たしたとの多くの情報にも拘わらず)(NEWSWEEK2/21)、ジリジリとウクライナ軍を西方に圧迫して いた。
一方、ウクライナ軍は新しい防衛線の構築を試みていたが、準備不十分な撤退や弾薬不足等のため徐々に後退を迫られている模様である(産経2/16、2/28、CNN3/5)。ウクライナ軍のアウディシカ周辺の陣地を衛星写真の画像を見れば、所謂1~2週間準備の応急陣地と判断出来る。ロシア軍の陣地と比較すれば縦深性に欠ける軽易な野戦築城の陣地で持久日数2週間以内の陣地強度であろう。ニューヨークタイム紙が公開した衛星画像によるとロシア軍を阻止する強固な陣地の構築に失敗した模様と伝えた(Newsweek 3/8)。
米シンクタンク戦争研間所は、26日ロシア軍は戦場一帯で主動権を取り戻していると指摘した(Fiji.com 2/8)。ロシア軍は西方に攻勢を強め、アウディカ制圧後に約6㎞進撃しウクライナ軍を困惑に陥しいれていると伝えられたが(Kyodo 3/1)秩序だったとも撤退とも伝えられた(NHKニュース2/17)。
いずれにしても、ウクライナ軍はアウディーカの郊外で積極防衛に転じ、ロシア軍の西進を砲撃等により阻止した模様である。 しかし、実は現地視察した(NHKニュース 2/17)シルスキー将軍の巧みな撤退戦術によりアウディーカの危機は回避されたようであった。ウクライナ軍は兵力の損害回避や弾薬不足等により西方の防御に適した地域にウクライナ軍は、かなり計画的に撤退し、アウディーカの北西8㎞に連なるあるベルディチ、オルリウカ、トネニケにウクライナ最強旅団を含む3箇旅団に小反撃をさせつつ後退させて、背後を突かれれない地域で積極防衛作戦における応急的な陣地からの計画的な反撃に転移し、ロシア軍の6個旅団の攻撃を撃退し、進撃するロシア軍の阻止に成功した(Forbes3/9)。
ややこじつけと云われるかもしれないが、この作戦はシルスキー将軍が得意とするラワ戦法の陣形に類似している。一方ロシア軍はピユロスの勝利と揶揄されているらしい(Forbes 3/9)。この戦闘でロシア軍は1.6万人、750両の戦闘車両の損害に比してウクライナ軍は2~3000人、戦闘車両100両の損害と伝えられた(Forbes 3/9)。
ロシア軍の攻勢は続き、この正面のウクライナ軍は、トネニケの西3㎞の地点で、榴弾砲と手榴弾搭載のFPVによる一斉砲撃戦法でロシア軍戦車12両、歩兵戦闘車8両を撃破して撃退したと伝えた(Forbes 4/2、乗もの4/6)。
しかし、チャシウヤール郊外での戦闘において、ウクライナ軍は脆弱な防衛線でジリジリと押さえ続けられていると英国情報部は悲観的な分析をした。.(CNN4/2、Reuters 4/6)。この正面が突破されるとウクライナは悲劇的な運命を辿る可能性があったNewsweek 4/5)。4月13日にシルスキー将軍は、プーチン大統領選以降のロシア軍は攻勢を強め、バムフト等の近郷で春の乾燥した気候でロシア軍戦車の機動性が高まり、ロシア軍は莫大な損害にも拘わらず攻撃を続行しているため、ウクライナ軍の東部の戦況は悪化していると述べたが(毎日 4/14)、戦況打開のためロシア軍の後方連絡戦にゲリラ戦を広汎に展開していた。
また、ISW(米シンクタンク戦争研究所)は、ロシア軍は東部ドネツツ州の占領地拡大のため、バムフト西4㎞の交通上の高台の要点チャシウヤールを占領を企図し、東部の大きな街の奪取を着実に狙っていると指摘した(読売4/16)。
このチャシウヤールが失陥すれば、ロシア軍はドンパスの主要都市への進撃を容易にし、西方に一気に進撃することが出来ると予想された(Forbes 4/12)。ウクライナ軍の弾薬不足による受動性が目につく戦況において、チャシウヤールの防御を担任していた部隊に指揮統率上の内紛が発生したため、シルスキー将軍は火力装備等の劣る別の部隊と入れ替えざるを得なくなったと伝えられた。もし、ロシア軍が占領すると深刻な危機的状況となると予想されるが(Forbes4/17)、今のところロシア軍の攻撃を食い止めていたが、陥落すればドネック州全体の制圧に近ずき戦略上大きな痛手であった(reuuters 4/17、産経 4/29 )。
この正面においては、続いて部隊交代に関する不手際が再発した。陣地配備を予定隊されていた部隊が逃げ出したため、30㎞の防衛線が一時無防備となつたことが事前に発見され、危機一発で対処されたと云う。(Forbes 4/25)。しかし、米シンクタンク戦争研究所はロシア軍のチャシウヤール正面の攻勢は加速されていると伝えた(産経4/27)。
一方、ウクライナ軍の部隊交代に伴う新鋭の機械化旅団の後方移動等、或いは米軍供与戦車の前線撤退情報(読売 4/27)等は、積極防衛における反撃の予備戦力の確保策とみられ、シルスキー将軍の反撃作戦が興味のあるところである。
注 内紛は、指揮官が特定の兵士のグループをぞんざいに扱ったため、恐らく戦況の悪化とともに坑命事態に発展したものと思われる。しかし、度重なる防御部隊交代のスキヤンダル報道の流布には、ロシア軍の攻撃の待ち受けなのか忌避なのか偽編陽動の匂いがすることは筆者だけではないと思われる。シルスキー将軍の手腕が評価される。
注 チャシウヤールの戦闘において、部隊の逃亡事件が発生したとの ニュース が流れたが、実は弾薬の不足は恐怖心を増大させ士気が 低下することを教訓 とすべきである。
しかし、このアウディーウカ正面へのロシア軍の攻勢は続き、ウクラナ軍はジリジジリと押され、撤退を重ねて失敗すれば総崩れになると軍事筋は警告した。
一方、米政策研究機関戦争研究所は追加の部隊が到着すれば戦線は安定し戦況が大きく動く可能性は低いと分析(讀売4/30) した。さらにロシア軍の目下の弱点は、追随していない兵站線にあると指摘した(Forbes4/28)・・・・。
4月28日、シルスキー将軍は東部の戦況悪化を認め(産経 4/29)、ゼレンスキー大統領も前線安定化のため武器弾薬等の供給のスピードアップを求めた(讀賣4/30)。
このピンチをチャンスに変える戦略戦術指導が期待されるが、コスイギンラインに籠もるロシア軍の撃破は困難であるが、陣外に出た戦車戦力の手薄なロシア軍を撃破する川中島の啄木鳥戦法、声東撃西の チャンスと見たい・・・
しかし、ウクライナ国防省情報局は、我々には武器がない。チャシウヤルの陥落は避けられないとの判断を英紙に示していた(讀賣 5/4)。ゼレンスキー大統領は、9日同盟国の武器供給があればロシア軍の東部への侵攻は阻止可能と自信を示した(Reuters 5/10)
注1 4月末までの東部ウクライナ軍の後退距離は20~30㎞前後と予想する(AI bard)。ロシア軍の1日当たりの進撃距離は数百~1㎞程度である(CNN 4/30、AI bard)。チヤシウヤルはバムフト西方20㎞の位置にある。
注2 ウクライナ軍は後退しても戦略的敗北はない指摘された(CNN 4/30)。
5月中旬に米国の軍事支援が届き始め、18日にはゼレンスキー大統領は困難な状況にあるが、高台の要衝チヤシウヤルでロシア軍を撃退したと強調した(NEWS WEB5/19)
このチャシウヤールの戦闘の模様はまだ各報道機関は公式に発表されていない。しかるにAI-|bardはかなり具体的に説明していたので紹介するが、後日真偽を確認して信頼性の評価をしたい。
注 チャシヤウールの戦闘の概要
チャシウヤールは、人口10万都市で丘陵地帯の標高250メートルの高台(平野部の標高約100メートル)に位置し、南北10㎞東西8㎞の周囲はドネッツ河川、森林地帯、湖沼に囲まれ、特にドンパス地方のバムフトーサボリージヤへの交通網を制する戦術的な緊要地形である。市は炭鉱、製鉄事業の工業都市であるが、現況はロシア側の砲撃等により 市内のビル等は廃墟となっている。しかし、独立した高台のため包囲さ れる危険が大きいと見られていた。
ウクライナ軍は、2023年末頃からチャシウヤール市街地と丘陵地帯に、生存壕と戦闘陣地等からなる野戦陣地を台端・台上に縦深に構築し、 地雷を敷設し、フービートラップ(罠)を仕掛け、人形等の偽装工作、森 林地帯には特殊 部隊(レンジ ャー) による小規模反撃陣地、残地部隊の 後方襲撃用の陣地撃等も準備したと推察する。現代戦にも十分通用する 硫黄島、沖縄戦の生存壕と戦闘陣地の設備を構築したと推測する。また戦闘勃発とともに、ボランティアによる補給は軍の装甲兵站部隊が担 当したと思料する。
防御するウクライナ軍の兵力は1.5万人~2万人、戦車400~800両、歩兵戦闘車100~500両、歩兵5000人、ドローン 500 機~2000機と云う。
攻撃するロシア軍の兵力は2万人、戦車500~200両、歩兵戦闘車400~1400両、歩兵15000人、ドローン100~500 機であり。略同等の戦力とみられる。
ロシア軍4月18日ごろからチャシウヤール周辺に集結し、同27日頃から同市の東側と南側から歩兵と戦闘車を中心とする戦闘を開始した。ロシア軍は砲撃と空爆による多方向からの攻撃で、市の東側と南側から攻撃していたが、東方向からの進撃経路は運河等の障害があるが、平坦で地籍があり、歩兵の展開及び戦闘が容易なため一部の部隊を東に配置変更し、WWⅡの独ソ戦勝利の記念日5月9日に向けて攻撃による制圧を狙ったと推測される(NHK 5/3)。同月4日チャシウヤールは包囲された模様である(KYODO 5/4)
これに対し、ウクライナ軍は地形と運河の障害を利用してロシア軍の航空攻撃に耐えながら頑強に市街と丘陵地帯の陣地防御と森林ゲリラ戦等で抵抗し、恐らく台端(NHK 5/4)でロシア軍を阻止すると予想する。兵站が問題であるが、恐らく事前に備蓄していたか、炭坑道補給等の対策を立てていたと推測する。しかし、ウクライナ国防省情報総局の高官はチャシウヤールが制圧されるのは時間の問題と語った(KYODO
5/4)。
5月1日頃から、ロシア軍は攻撃を開始し、9日には市の中央付近まで進出するがウクライナ軍は反撃して撃退、その後の戦線は膠着しいる。このあまりにも早いロシア軍の高地の攻撃において、航空火力等の劣勢のウクライナ軍は、敢えてCQB(CloseQuatersBattie)戦法を採用したのではとの疑問が沸くが、後日の究明に期待する。
5月中旬以降、待望の米国からの軍事物資が届き始め、ウクライナ軍の弾薬は充実してきた。17日頃には人海戦術で突撃を繰り返すロシア軍に大きな損害を与え始め、ロシア軍の進撃を阻止した。東部の戦況はウクライナ側に有利に傾きはじめた(Forbes 5/20)。
注 大筋としてAI-bardとForbesの戦況ニユースの同質性が認められる。
ロシア軍の本格的攻勢は5月末~6月と伝えられ、この地域には約12万人の兵力が集中していたので(Reuters 2/20)、この部隊がチャシウヤール正面を突破してドネツツ州の完全制圧を狙うのか、或いはサボリージヤ正面のウクライナ軍主力を包囲してドニエブル河左岸流域から一掃することを 狙っているのかのどちらかであろう。今春唯一の戦局の転換点となるものと予測されている。
おわりに
2023年末からの本年4月末頃までのシルスキー将軍の指揮する作戦は予想以上の苦戦を招いているが、積極防衛についてはアウデーシカ正面のチヤシウヤル、北部正面のボルチヤレスク等に代表されるように、次のように要約される。
・防勢作戦である(陣地防御を主体とし、大小規模の反撃を組み合わせる)
・防御行動においても主導権を保持する(反撃は人的損害を避けたスタンドオフの火力打撃を重視し、状況に応じた機動打撃を積極的に併用 する)。
注 シルスキー将軍のインタビュー記事からも榴弾砲の火力重視の姿勢 が見える(イ)ンタビュー3/29)。
・長期戦、消耗戦を強要するとともに、一時的に大損害与え敵の戦意等を破砕する。また、非正規戦の多用とともに無人機等によるロシア国内のインフラ攻撃をする。
・領土の最大限の保全等を図る。
しかし、ウクライナ軍の冬季間を利用した積極防衛の陣地は、重視正面のアウディシカの例から見ても、恐らく全正面にわたる応急的な 陣地のためロシア軍の阻止は難しいと思われる。もし、陣地の強度に期待しで敵の攻撃の阻止する場合は、やはり縦深の地雷源を敷設した年月をかけた半永久的な陣地を構築する必要があるといえよう。
アウディシカ正面等の戦局の帰趨は積極防衛の全戦局に影響するため、ウクライナとともに西側諸国は、ウクライナ軍が新たな陣地線を構築し、最近は軍事的評価が高まっているシルスキー将軍が得意とする小反撃等のあらゆる戦術戦法を駆使してロシア軍の進撃を阻止することに注目している(東洋経済 4/26)。
また米英国の新たな支援による費用対効果に優れた砲弾、ドローン兵器、パトリオ ット、射程300㎞の親子爆弾ATACMS、F--16の近接支援火力等のもとに、恐らくは命運を賭けた反撃作戦を年内に展開出来ることを期待している(東洋経済4/24)。
注1 米国のウクライナ支援法案の可決遅延が砲弾等の不足の主な原因であるが、下院で近く可決されるとの観測もあった(ロイター3/2)。迷走半年ようやく4月21日下院で可決され、上院での採決と大統領バイデンの署名を経て成立し(産経4/21)、英国も具体的支援を表明した(Newsweek4/24)。
しかし、この支援はロシア軍の進撃を遅らせることは可能との辛口批評もあるように(BBC 4/22)、この支援規模はロシア軍の撃擾・敗退を期しているのかウクライナ軍の積極防衛の危急援助等なのかは別に検証の必要がある。
注2 有事における日米安保の発効はどのようになるのであろうか?ウクライナ軍の積極防衛は反撃行動を伴うものであり、大規模の反撃はより多くの資源を必要とする。反転攻勢後の戦力を消耗したウクライナ軍として、当面の積極防衛の作戦方針に妥当性があるかどうかの検討をAIで検証した結果を紹介するとウクライナ軍の作戦方針を航空劣勢下での、① 防御のみ、②防御主反撃小、③防御小反撃大、とした場合の資源面や軍事面等から検討すると、防御主反撃小案を最適案としている。
注 AIによる離島防衛について、①盗られたら取り返す、②盗らせない、 の方針の優劣判定は?
また、ウクライナ軍が積極防衛防衛に移行後、特にアウデーシカとチャシウヤール等正面において予想を上回る大損害をロシア軍に与えながらも、ロシア軍に押され、徐々に後退した軍事的要因は次のように総括できると考える。
両軍は、あらためて政戦略等を再検討して軍事力を整備し、次期作戦に備えるであろう。
①ロシア軍
・アウデーシカ等正面に戦力を集中する主攻勢方針を堅持し、且つ全正面(多正面)同時攻撃戦法をとつたこと
・制空権を確保し、誘導滑空爆弾等の近接航空支援火力を地上戦に多用したこと
・損害を顧みない人海戦術等をとったこと
②ウクライナ軍
・戦力の劣勢、特に弾薬等不足による長・短距離火力打撃力の不足、損耗、兵力、武器等の補充能力の不足
・防御陣地の脆弱、特に地雷源等による阻止力が弱体であつたこと
・ロシア空軍機の対地攻撃を拒否する戦場防空能力及びドローンによる基地への攻撃能力の不足(Forbes 5/3)
因みに、AI bardはランチェスター2次式による航空戦力劣勢下のウクライ ナ軍の概括的な戦況判断をすれば、次のように推定をしている(AI bard)。
・戦闘開始当初はロシア軍が攻撃的のため優勢に立つ場合がある。
・しかし、ウクライナ軍は積極的防御作戦(反撃を含む)により防御拠点でシア軍を阻止反撃して進撃を阻止できる。
・戦況は膠着状態となり長期化する(ウクライナ軍は負けない作戦となる)。
・最終的には、勝敗は制空権の奪い合いとなり、また西側諸国の支援程度で決まると推定する。
最後に、AIを導入した現代戦における戦略戦術の探求を期するには、ウクライナにおける両軍の戦況推移或いはシルスキー将軍の作戦指導等の追跡こそが身近な研究正面であり材料の一端であり、更に内容を充実すればケーススタディにも最適であると提言したい。
注1 AIの効用により、①勝敗の概略判定等、②最適方針の案出、③敵情報資料等の入手等の一端でもと期待したが、AIを使いこなすデーター不足、使用者の力不足等のため期待した効用はあまり望めず、更に情報の入手についても十分といえず、全般的にまだAIを活用するという段階に筆者達が達していないと反省している。しかし、3(4)人寄れば文殊の知恵とか超えられないことはないとも思っている。諸兄の意見を伺いたい。
注2 ケーススタディについて、図戦現戦が仮想空間等のケーススタディ化 にあるとすれば、実は最近戦例のケーススタディは最良の疑似体験と云え るのではないか、・・米寿の繰言かも。AIについては、全く見捨てたものではない。我々はいずれ人間の能力をは るかに超えるAGI(汎用人口知能)を使用することになるのではと素人なが ら 思料するが、当面は道具(読売4/9) として活用が出来るのかと考えてい る。しかし、道具としてもまだ問題点があるようでもある(読売 4/30)。