2023年6月以降のウクライナ軍の反攻作戦は成功するか
2023.07.05
中口廣之、 久保田穣一、金塚行雄、藤本晶士
はじめに
2022年2月に、突如ロシア軍はウクライナ領に軍事侵攻を開始した。その首都キーウや第二の都市ハルキウー等の攻撃に対し、ウクライナ軍は西側諸国の軍事支援を受けてロシア軍に抵抗し、これを阻止・撃攘するとともにウクライナ軍の戦力回復増進に成功した。一方、キーウ等から撃攘されたロシア軍は、ドニエプル東岸のウクライナ領の占領確保等に作戦目的を変え、防勢作戦に転移した。
2023年6月中旬以降、これらの領土奪還に向けて、ウクライナ軍の反攻作戦がドニエプル東岸のウクライナ南部(サポリーシャ・ヘルソン州)、東南部(ドネック州等)に指向され、現在双方の激戦が展開されている(読売7/3)。
以下、反攻ウクライナ陸軍指揮官のシルスキー将軍のプロフィール、チャットGPT(バード)情報を参考とした反攻陸上作戦の計画等、まだ初期作戦の段階ではあるが、じ後の本格的反攻作戦の概略見積り、ウクライナ軍反攻作戦の問題点等を浮彫にしたい。
1.ウクライナ軍の予想される対露反攻作戦の概要
(1)反攻作戦を指揮する陸軍指揮官シルスキー将軍のプロフィール(news yahoo 6/14)
経歴等 ウクライナの英雄、戦略家、ロシア通のシルスキー将軍(57才)
(ウクライナ・モスクワの軍事学校、ウクライナ軍事・国防アカデミー卒)
性格等 ストイック 禁欲主義者 思索家 物静かな官吏型タイプ(政治不関与)
柔軟性を備えた戦略通 強迫的な計画家(強引・不動の信念家?)
現場進出主義、命令は簡潔・統一
軍事史 古代戦史の研究家で戦争の基本原則は①側面攻撃②敵の包囲③防衛線の弱
点攻撃を持論とする
主要作戦歴等(中央日報6/14)
キーウの防衛に成功
・キーウ周辺のダム・吊り橋を爆破等してロシア軍の進撃を遅らせて時間
を稼ぎ、西側のジャベリン等の武器支援を得てキーウ防衛に成功した。
・ロシア軍の機甲部隊の接近経路を予想して待ち伏せ奇襲作戦・ゲリラ戦
で、世界2位のロシア軍を撃退した。
・そのほかキーウ周辺の防衛は現場指揮官に全権委任し、好機にウクライ
ナ機甲部隊を出撃させロシア軍を包囲反撃し、更に補給路を遮断してキ
ウから退却させた。
ハリキウの奪還に成功(声東撃西の陽動作戦)
・南部のヘルソンで大規模の攻勢をとり、北部ハリキウのロシア軍を南部
に転用させる陽動作戦を敢行し、最小限の兵力でハリキウを奪還した。
2. シルスキー将軍の反攻計画の概要
(1)ウクライナ軍の作戦目的と作戦順位
作戦目的はクリミヤ半島を含む侵攻を受けた全ウクラナイ領の回復とする。
作戦順位は、①ウクライナ南部と東南部のウクラナイ領を分断する(メリトポリを
占領してウクライナ回廊を分断し補給幹線を遮断)、②平地帯のウクライナ南部か
丘陵地帯の東南部を回復(南部を優先するが作戦の進展により決定)、③じ後はク
リミヤ半島の回復を最終目標とすると推測する。
チャットGPT(バード)では、領土の回復よりロシア軍を追い出すことを作戦
目的とし背後からの攻撃を示唆している。また南部地域はロシア軍の防備は
固いが、ロシア軍の補給幹線があり、ウクライナ農業生産の重要地域のため、
その奪還はロシア軍の戦略的敗北につながるとして南部地域優先としている。
(2)ウクライナ軍の反攻作戦の構想
反攻作戦の構想は、2023年3月頃には固まっていたと見られ、その頃,シルスキー将軍は
反攻を示唆している。
将軍の得意とするところは、機動・奇襲・ゲリラ戦等らしく、前述の戦争の原則、作戦経
歴からも判断すると、ウクライナ東岸を占領するロシア軍を機動戦で奇襲して包囲迂回し、
特に後方連絡線を遮断して戦意を喪失させ、ロシア軍の崩壊逃亡を誘う撃攘構想と推測する
(news week 5/20、チャットGPT(バード)
(3)作戦形態
ウクライナ軍の内戦作戦により、ウクライナ領内ロシア軍の数線塹壕陣地を突破し各個に
撃攘等する。
(4)作戦正面等
南部サボリージャ州~東南部ドネック州の広大な地域の作戦(作戦正面は約1,500kmで実質
800㎞、 縦深約100㎞)
(5)作戦期間
短期作戦で目的を達成する。
(6)反攻作戦の所要兵力
戦意の低いドニエプル東岸のロシア軍の兵力等
・防御するロシア軍(かなりの旧式装備軍等、詳細は不明)
・約10万人/南東部・東部正面に配備(重点は南東部)。
・集落を連接して間隙等があるももの数線の縦深(塹壕)の野戦陣地を構築し各陣地には戦車を
配備し、更に縦深500m~1Kmの地雷原とコンクリート製の対戦車壕、竜の歯の対戦車障害
物等かなり強固な陣地を構築している。
上記ロシア軍に対するウクライナ軍の反攻突破作戦の所要兵力。
・ウクライナの作戦部隊は西欧諸国の援助による超近代装備軍
・6コ機械化旅団(5,000人/旅団)(週プレnews 6/20)
(12個機械化旅団説もあるが、企図秘匿のため少なめ非公表か?)
3.シルスキー将軍の指揮するウクライナ軍の反攻作戦
(1)現在のロシア軍前哨地帯における作戦
6月中旬以降、ウクライナ軍の一部は南東部及び東部の全線にわたり(NHKニュース6/14)陣地間
の間隙、弱点或いは主陣地帯の突破口の探知等ともに、後述するがウクライナ軍全般作戦の準備作
戦を展開した(読売6/24)。ところが、ロシア軍を攻撃するウクライナ軍に次のような問題点が発生
した。例えば、南東部サボリージヤ州のロシア軍の地雷原・陣地の強行突破においてレオパルト戦
車数両、ブラッドレイ歩兵戦闘車10数両、レオパルト工兵車(地雷処理、壕修復等)3両を短時間に
失った。特に地雷原の突破が反攻作戦の鍵をなると認識された(Forbes 6/24)。
これらの作戦から、①突破の苦戦(戦車等の損耗大)、②兵力不足、③地雷原等のため機動力が発
揮困難(読売6/14)、④進撃速度が遅い等が反省された(日経6/20)。
(2)じ後のロシア軍主陣地帯等における作戦
主陣地帯の戦闘においては、ロシア軍は約12カ月以上の時間をかけ、特に南東部サボリージヤ州
正面においては、縦深(塹壕)が3層にわたる超強固な陣地を構築している(読売6/14)。その持久力
は半永久的と予想され、更にロシア軍は戦闘要領を改めて死守を命じられているらしい(米シンクタ
ンク6/7)。東部ドネック州等正面の陣地も、南東部の陣地と概ね同等の構造等で構築されていると
みられる。
今後、ウクライナ軍は東南部正面のドネック州のバムフト、南部正面はサボリージャ州のメリトポ
リ及びヘルソン州のヘルソンへの攻撃を主軸として、反攻作戦の第一段階の作戦を展開すると予想さ
れる。南部メルトポリ等方面のロシア軍の主要地帯における作戦は、キーウ・ハリキウ等の対ロシア
軍の経験及びウクライナ軍の前哨地帯の作戦を反省する手段をとりつつ、①陣地の間隙・弱点等から
の小包囲・迂回」による攻撃、②正面からの夜間の強行突破(NHK6/11)による各個撃破・撃攘等を
併用して占領地域の拡大を図るであろう。
一方、ロシア軍の頑強に抵抗している戦況に際し、米国側は反攻のペースは期待を下回っていると
判断している(CNN7/2)。
7月2日、ロシア軍第一線陣地に対するウクライナ軍の攻撃が難航している戦況において、ウク
ライナ側から停戦交渉を年内に始めるとのニュースが報じられた。ウクライナ軍の大規模な反攻攻
撃で、南・東部の広範囲な領土を今秋までに奪還したうえで、ロシア側と停戦交渉をする計画を立
てたと報じられた。
奪還する領土は、南部はクリミアを砲撃の射程内、東部はバムフト近くまでとした限定的な範囲
に縮小されたと判断される(各紙7/2)。
この報道は、シルスキー将軍には作戦目的の縮小であり、恐らくクリミヤ及びドニエプル東岸の
ウクライナ領の半分の回復を断念したもので、ウクライナ回廊と言われるメリトポリ~バムフトを
結ぶ以北の線と予想する。また、作戦時期を限定した作戦でもある。
シルスキー将軍は、作戦目的等を最大限に追及する積極作戦をとるか或いは半減した作戦目的等
を慎重に達成する消極作戦をとるかの選択を迫られたと想像する。
もし積極作戦をとった場合は、メリトリ正面は強行的な力攻めで出来るだけ多くのロシア軍を抑留
し、バムフト或いはヘルソン方面からの放胆積極的な大包囲作戦を展開しウクライナ領を占領するロ
シア軍の撃攘等を企図するチャンスは生まれるが、ウクライナの国策や継戦能力等から、あと数年は
必要なこの作戦を許されないと予想する。
また、停戦交渉が間近にあるとすれば、ウクライナ側は一寸でも多くの領地奪回を願い、ロシア
側は安全な帰国を願うことになると予想できる。ここに戦意の違いが出て戦局に多大の影響を及ぼ
すと考えられる。もしかすると、停戦交渉案にウクライナ軍シルスキー将軍の謀略がひそんでいる
のかと思料する。
その後における各正面の作戦経過を予想すると、ロシア軍が戦意をなくして逃亡する状況になれば、
反攻作戦は早期に決着すると予想されるが現在その兆候はない。督戦等により、ロシア軍が頑強に抵
抗する場合においては、特にウクライナ軍の兵力不足が問題となり、或いは強固に補強され間隙等の
少ないロシア軍陣地等の突破作戦は、進撃も遅く損害も多くなり、長くても6ヵ月余でウクライナ軍
の攻勢は頓挫し、ドニエプル東岸地域のロシア軍の撃攘等の作戦は膠着するのではないかとの予想が
大方であろ(The wall streetjournal6/21)。
チャットGPT(バード)では、ロシア軍は多くの兵力と装備を投入し地雷原・障害物
を敷設して陣地を死守しているので、ウクライナ軍が突破するのは簡単ではないと
し、両軍の停戦意識がない限り数年続く可能性があると予想している。
戦闘日あたりの損耗率を2%とすると、補充がなければ10~20%//月と予想される。
4.反攻作戦に関する一考察
最近のウクライナ反攻作戦について、専門家と自認する解説者はウクライナ軍の精 強、近
代的戦法をほめたたえ、一方ロシア軍の弱体、ロシア国内の体制混乱を過度に持ち上げて、間
もなく或いは数年後にはウクライナ軍は全領土を回復し、ウクライナの勝利を希望的に期待す
る観測が大勢を占めている。
また、陸上回廊(南部サポリーシャの補給幹線を遮断しクリミヤのロシア軍等を孤立)
の占領で十分であるとする説もある(海外経済ニュース2/27)。一方、この作戦は予断を許
さないとする判断も多く、過剰期待はウクライナを不幸にするとの説もある(BBC6/15)
いずれにしても、将来予測の難しさから予断は許さないというのが一般的な判断であろう。この
状況のなかで、シルスキー将軍の陸上作戦等の政戦略上の問題点等について私見を述べたい。
チャットGPT(バード)では、ロシア軍は優勢であるので後方連絡線を遮断出
来れば 成功の可能性があるが、その成否は不明としている。
この反攻作戦の最大の軍事的問題点は、劣勢のウクラナイ軍をもってする短期の内戦作
戦の実行と云うところにあろう。
内戦作戦の妙はスピードと各個撃破等にある。しかし、ウクラナイ軍が東南部等で、
迅速にロシア軍の各個撃破等を図る事は不可能と思われ、逆に深入りして抑留拘束され
る危険性の方が大きい。一方ロシア軍は有利な外線作戦の態勢を生かして、戦機にベル
ラーシの15万、ロシア中部の20万の予備兵力(チャットGPT情報)をキーウ・ハリキウ方
面から投入し、キーウを守るウクラナイ北部軍(約3コ旅団?)を撃破して反攻部隊の背後
に襲いかかり、戦況を一挙に逆転する作戦をとるのではと危惧させる。
特に、大国ロシア軍側は、敢えてロシア軍の士気の低下、兵器弾薬の不足、ワグネ
ネルの反乱等の情報等(読売6/25)(事実かもしれないが)を流し、今がウクライナ反攻の
追い風とウクラナイ軍を誘っているとの見方も出来る。
ウクライナ軍としては、常に背後に脅威を感じ、もし突かれた場合は独力または西側
国の力を借りて対応する手段を講じつつ作戦を継続することになろう。
その対応の一つに、ウクラナイ軍にとって最大の願望である北大西洋条約機構軍の参
入があるが、それを拒止するためロシア側は射程が短くロシア軍の作戦行動を過度に制
約することがない戦術核の配置をベラルシーに画策し、北大西洋条約機構軍の参入事態
に際しては、戦術核使用の威嚇策をとると思われる(読売 6/24)。
これにより、プーチンの失脚願望とともに、北大西洋条約機構軍の参入期待は消え、
ウクラナイ軍は独力対応をせざる得ない事態となり、さらに困難な事態になることも
予想される。
現在は、まだ反攻作戦の準備段階とみられるが、早くもウクライナ軍の得意とする
機動的な戦術戦法等に翳りがみえることに注目したい(BBC 6/22)。
周到に準備された防御陣地に対する進撃速度の低下は、①攻撃部隊の兵力不足と経
験不足、②機動戦によるロシア軍の背後や後方連絡線遮断等のゲリラ的戦法が多用さ
れにくくなったこと等が起因としてあげられると思う。
これらの事態を考えると、これから数年に及ぶことも予想される国民等の大きな犠
牲のもとのウクライナ軍の長期戦構えの反攻作戦には(読売6/24)、現実的で合理的な
政戦略が必要と誰しも感ずるところである。ウクライナは、この度、遅ればせながら
も作戦目的等の下方修正に踏み切った(読売7/2)。国家民族の興亡がかかる場合は、国
家レべルの臥薪嘗胆も必要なのかもしれない(しかし橋下論への批判は大きい)。
ウクライナ国民は、2014年のロシアによるクリミヤ半島の不法併合に際し、ロシア
に決して屈しないとの愛国心を高めたのに対し、今回のウクライナ戦争は政府が勝手
にはじめたもので、私には関係ないとの不戦意識が反戦意識となったのではないかと
理解出来る。科学技術の進歩とともに戦闘様相等は変化するかもしれない
が、政戦略策定等の基礎は国民の意識にあるという原理原則は不変と思われる。
ウクライナの名将と評されるシルスキー将軍の軍事的に難しい反攻作戦の政戦略等
には、わが国の二正面作戦の防衛政戦略のあり方についても参考となるものが多いと
感ずるものがある。
脇道にそれるが、ウクラナイ軍のシルスキー将軍の資質等は、なんとなく沖縄作戦
の冷徹な栗林中将、機動戦を重視したロンメル、リットン将軍と似ているのではと思
っている。浅薄非才の遠吠えと恥じながらも、ボケ防止のため、赤恥をかくことを覚
悟して4名の意見をまとめたが、竜頭蛇尾となったことについても諸兄のご叱責を頂
きたい。
尚、本稿で使用する軍事的諸情報は秘密性が高いためか資料不足のため推測が多く、
読み物的になっている。
最後に、チャットGPTは、社会に現存する超膨大で多様な情報資料から、質問に対
する関連事項を検索、整理、回答をするという膨大な作業を、最近の発達したITによ
って、超迅速に実行する生成AIと理解するが、「一定の利用価値があると」云われな
がらも、未だ正否の評価と規制等が割れている中で(読売7/4)、その使用を試み、チャ
ットから得られたそれらの情報等を使用したことをお断りする。