防大学校長が見た9年
2021.06.10
国分良成前校長は、2012年から9年間、防大校長を務め、今年3月に退任されました。朝日新聞(21年6月5日)のオピニオン&フォーラム欄に、国分前校長に対するインタビュー記事が掲載されていました。防大の特徴、安保環境、憲法、PKOなどの自衛隊の活動等について広く語っておられます。その中から、防大の学生と学生生活を見た所見を抽出して紹介します。
――学校長として、日々何を感じてきましたか。
「防大に来る前は、教育というものについて曰常的に考えたことが、あまりなかったんです。ところが防大では、毎日毎日、『教育とは何か』 『どういう人材を育てるか』という議論の連続でした。20年後、30年後の国と国民を守り抜き、平和を築く。そういう志を持つた人間を育てなければならないですから」
――学生たちは入学した時から志を持つているものですか。
「元々は普通の若者だと思います。国防に関心のある人もいれば、経済的に親孝行したい、という人もいる。『え、自衛隊に行かなくちゃいけないんですか』というのもいます」
「卒業を前にしたある学生に『防大は普通じゃない学校ですよね』と言われました。なぜ、と聞くと『あまりに厳しくて、みんな一度は辞めようと思う学校です。でも、そこを乗り越えるんです』と返つてきました。確かに一般の大学では、そんなことはあり得ないですね」
―-どういうことでしょう。
「防大は、大学であると同時に士官学校でもあります。学生舎という寮は一部屋8人で、学生同士で生活を指導します。6時に起床、すぐに整列し、掃除する。1年生は食事の準備もあって忙しい。新入生は4月1日に防大に来ますが、5日の入校式までに結構な数が去つていきます。『こんな生活、耐えられない』と。
「1年生の夏休み前に8キロの海上遠泳があります。6時間から7時間かけて泳ぐのですが、これが最初の関門です。2年生になるとボートのカッター競技会があり、ものすごくきつい。しかし、これを終えると辞める人がいなくなる。学生が運営する準備委員会が中心となって、伝統行事の棒倒しや演劇、合唱大会などもあります。同期、先輩、後輩と、苦楽を共にした仲間ができていきます。
「女子学生が2割に達するのは時間の問題だと思います。男女の壁をできるだけ取り払うことが必要だと思ってきました」
――一方、自衛官への任官を辞退する人が毎年います。
「圧倒的多数は自衛隊に行きますが、行かない人もいる。理由は様々です。指揮官として部下を守れる自信がないという学生もいる。卒業前に私のところに来て『何かあった時、人に銃を向けることができないと思います』という学生もいました。いまは部隊で頑張つているようですが」
―-厳しい情勢の中、防大の学生に伝えたいことは何でしょう。
「防大で仕事をしてきて思つたのは、こんなすばらしい若者たちがいたのか、ということ。そしていかに自衛隊を知らなかったかということです。正直、人生観が変わりました」
「現場で日々、緊張が続いている。一瞬の判断ミスが日本という国のミスになってしまう。防大で厳しい訓練を受けたことのない私が、防大教育とは何か、などと偉そうな議論をしていることに、後ろめたさも感じてきました」
「自衛隊のある幹部が、学生たちを前に、こんな講演をしたことがあります。『戦前の陸軍士官学校の時代は何度も戦争をしたが、我々は一度も戦争を起こさず、平和を守り抜いた』と言うのです。数年たってその幹部に再会したら『それが核心です』、と。自衛隊は何もしないできたのではありません。私は平和はつくるものだと思つているんです」
「生まれ変わったら、次は防衛大学校に入りたい。合格すればですが」 (聞き手・小村田義之)
(HP担当藤本)