1キロワット時の電力とは
2019.06.03
- 古賀義亮記
- 2013.1.17 2019.5.30
いま原子力発電の在り方に多くの議論が行われている。筆者は、原子力発電を存続すべきか、或いは廃止すべきか、いずれの立場でもない。しかし地球温暖化に伴い人類が絶滅危惧種となることを回避するためには、廃止すべきと傾きつつある。その根拠となる理由を述べたい。令和元年となった現在、いま防衛大学校副校長の香月 智氏から土木工学の専門家の立場から平成24年にメイルが届いていた。まずはメイルの一部から引用する。
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「水力発電ダムの意義」について少し話をしますが、その時の雑学資料を作ってみました。あまりにも実感とかけ離れた 1kWhのエネルギー換算値とそのあまりにも安い価格となったのですが、こんなもんでしょうか? 自然エネルギー愛好家である私は、一時期「高層ビルの小水だめをつくって、それを水力発電にしたら、ビルの消費電力の足しになる」などと冗談を飛ばしていたのですが、この数字が本当なら、ガリバーに蟻が食いついたような話題です。
1.全 般 ウィキペディアによると、主要国の一日一人当たりの電力使用量は、全世界(8.2kWh)、日本(23.4)、中国(7.0)、ロシア(20)、韓国(24)、台湾(28.4)、オーストラリア(33.5)、米国(39)、カナダ(51.5)となっている。1kWh当たりのGDP生産額は、全世界(3.5)、日本(4.0) 、カナダ(2.1) 、ロシア(2.2)、中国(2.3)、韓国(3.0)、台湾(3.0)、オーストラリア(3.1)、米国(3.3)となっており、日本は、主要国で一人当たりの電力使用量は、中国・ロシアより大きく、韓国その他より小さい。その電力を生産に結びつける効率性では、主要国中で一番である。ちなみに、全世界の効率が、3.5と日本を除く他の主要国より大きいことは、電力使用量の少ない開発途上国の方が効率は高いことになる。つまり、日本は電力の総使用量が大きい主要国の中でやや異常な傾向のある国である。
2.一日の電力使用量を水力発電の水量に換算 エネルギーとワットの関係は、次式のとおりである。
1 ジュール = 1 W × 1 s = 1 ワット秒 であるから、1kWh=1.0×1000×3600W・s=3.6×106ジュール、1 ジュール=1 N × 1mであるから、1kWh=3.6×105N ×10mである。つまり、3.6×105Nの重さの水を10mの高さから落水したエネルギーが100%電力に交換されたときのエネルギーである。
では、3.6×105Nとは、どのような大きさか。1m×1m×1mの直方体の水は、1トン=10kN=104Nである。よって、他の電力を使わずに、個人ごとに一人当たりの必要量を稼ぐには、36m3(4m深さで、3m×3mの広さの水槽)の水を、毎日10m(2階建ての家の屋根に上)まで、運び上げて、その水の位置エネルギーが100%電力に変換できる水力発電機を廻して、1kWhを確保できる。日本人は、これの約24倍で、現状の生活を維持できることになる。発電効率が0.5であれば、その倍の量が必要である。
3.水量を確保することの労働換算 灯油缶は20リットル(20kgf=200N)で、これを運ぶのが「ふうふう」言っている。これで1kWhの必要量を担ぎ上げるとすると、36m3÷0.02 m3=1800往復。10m高さの登り下りの往復を1分で済ましても、1800分=30時間となり、一日で終わらない、寝る間をとるには、一往復30秒となる。つまり、全力ダッシュでぎりぎり可能だろうか。仮にそれを達成しても、それ以外の食事も労働もままならない。その24倍というと、1秒で往復せねばならない。
4.電力会社のコスト意識 ある会社に問うたところ、水力発電所の意識では、1m3の水を無駄に下流に流すと、1円を捨てたと思うそうである。ネットで単価を検索すると、1kWhで20円位である。一日に20リットル缶を10m上まで担ぎ上げること1800回分が20円である。 そんなもんですか。
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筆者は、上記の事項が正しいかどうか確認することにした。
1.ポンプによる揚水換算 市販の比較的小型の0.37kWの電力で10メートルの高さに0.12 m3/分の能力を持つ揚水ポンプで1時間あたり7.2m3の揚水ができる。36 m3を揚水するためには5時間かかるので、0.37kW×5時間=1.85kWh、つまり20円×1.85 kW=37円となる。 そんなもんでした。
2.1kWhの電力量の発電に要する水量 少しばかり踏み込んで試算を加えよう。まずはウィキペディアの記述を省略して引用する。
3.理論水力発電量 実際の水路には流水と壁面との間の摩擦や曲がりの抵抗などによりエネルギーの消費(損失)があり、高さ h (m) にある質量 m (kg) の水が持つエネルギーのうち、損失分を減じたものが水車に作用する有効なエネルギーとなるので、それを有効落差 H (m)とする。水管路を流れるときの流量 Q [m³/s] とすれば、1 (m³) で質量 1,000 (kg) の水が発電機の水車に作用する理論上のエネルギー は、 mgh = 1000 × Q × 9.8 × H = 9800 Q H [J] = 9800 Q H [W] = 9.8 Q H [kW] となる。この水によるエネルギーは水車に作用するが、最終的には発電機出力電力 P は水車効率 と、発電機効率 による総合効率ηを乗じたものであるから P = 9.8 Q H η [kW] である。ここでηは水車発電機の種類や構造や経年によって変化するが、一般的にかなり高く、近似的に次式が成立する。 P ≒ 8.5 Q H [kW]。
以上のウィキペディアの記述内容をもとにする。上記は1秒あたりの電力量なので1kWhは、1時間=60秒×60分、すなわち3600を乗じて、P×3600 ≒ 8.5 Q H [kWh]、であり、Pを1、有効高さHを10mとしてQの値を求めると Q = 3600/85 = 42.4 (m³) となる。
4.人力のポンプによる人件費換算 次に人力による揚水した場合の人件費を求めてみよう。人力ポンプには5mの高さに50リットル/分のポンプが実在するので、これを基に人力による費用を試算する。1kWhと同等のQには5mの有効高さに84.8 m³の水量が必要になるので、84.8/0.05(分) すなわち28.3時間かかる。最低賃金を650円/時間(全国で最も低い最低賃金は島根県と高知県の652円)とすると約18,400円になる。電力の料金はいかにも安いことを実感できる。
2013年の年頭行事の様子を報道していたテレビ番組で、ある大会社の社長は「安い電力を供給してくれることが、日本経済の再生に繋がります」といっていたことが印象に残っている。気がつくことは、いまの中学、高校、さらには大学に至るまでエネルギー中心とした科学知識を教育として取り上げていないことである。文明を支えるエネルギーの本質的なことを、よく理解していないことは、土木工学の専門家である香月副校長から改めて教えられた。
関東地方では2013年1月14日に積雪があり、我が家の家人は小型乗用車で勤務場所におもむいた。この小型乗用車は調べてみたら約30馬力であるから、昔ならば30頭仕立ての馬車で出勤したことになる。人類は、エネルギーの浪費によって滅亡が早まることは間違いなさそうである。
当初に書いたように筆者は原子力発電に関しては中庸な立場である。先進国として日本の文明をいまのまま保持するためには、安い電力の供給が必要であることは平成25年の年頭行事で、ある大会社の社長が高言したとおりである。シェル・オイルの採掘により米国大陸は100年分の化石燃料が確保されるというNHKの報道番組もあったが、それもやがては枯渇する。場合によってはエネルギーを獲得、確保するための戦争が起こるかも知れない。そのことを防ぎ、しかも文明を保持するためには人類滅亡の時期がはやまることがあるとしても原子力発電を開発しなければ安価な電力エネルギーの供給は満たされないであろう。これが原子力発電を支持する立場である。
人類の繁栄ができる限り永続するためには原子力発電をなくして、太陽と地球から供給される自然エネルギーのみに頼って生存を計ることを画策しなければならない。電力を人力で発生させることは不可能に近いことから、人類は自然と親しむ環境で生活し、しかも人口の増大はさけなければならないであろう。これは原子力発電を避ける立場である。筆者は中庸な立場ではあるが、いずれを選択するかは子孫にゆだねるしかない。