防衛大・平成22年度卒業式
2017.07.07
- 古賀義亮
- 2011,3,21
平成23年3月20日に防衛大の卒業式が実施された。
3月11日に発生した東北太平洋地震のために、卒業式が行われるかどうかはわからなかったが、中止するとの連絡がないことから、交通手段を危惧しながらも出席した。感動的な卒業式であった。
まずは午餐会の代わりに実施された昼食会で、五百旗真学校長の卒業式を挙行するに至ったいきさつを話された。その内容から紹介する。
五百旗学校長は、阪神淡路大震災も経験されたという。指導していた学生がようやく何とか卒業できるまでこぎ着いた。しかし、その学生は震災で亡くなった。震災後のことで満足な卒業式が行われなかったが、その学生の父兄に御出席頂いて、卒業証書をお渡ししたそうである。五百旗学校長の生涯忘れることのできない卒業式であったという。
防衛大学校の今回の卒業式も取りやめにしてはどうかとの意見具申もあったが、この困難時にあってこそ、卒業する学生にとっては忘れることができない卒業式になるはずである。また国の直面する難事にあっても活躍してもらわなければならない卒業生に、国民の願いを込めて卒業を祝福するともに今後の日本の将来を各自に託すことが銘記されると信じ、華美なる祝典を省いて挙行することにしたという意向を述べられた。その趣旨からも菅直人総理大臣と北澤俊美防衛大臣にも卒業式に列席いただいたということであった。
当初に出席者全員の黙祷から行われた防衛大の卒業式は、総理大臣、防衛大臣出席のもとに粛々と挙行された。卒業証書授与、学位記伝達はいつものように実施された。学生一人一人を出席者は見守る。その出席者はいつもの半数程度に過ぎない。
学校長の祝辞に引き続き、菅直人総理の祝辞があった。いま日本は戦後最大の自然災害とそれによる原子力発電所の事故に見舞われており、その災害にあって、国民の期待に応えて防衛大の卒業生が大変活躍していることに感謝することを述べた。また国外にあっても世界の平和のために様々な貢献を行っていることについてもふれた。卒業生が将来の日本国、国民、さらには世界に貢献することを念願して祝福の言葉とした。政治と政党のことには一切言及しなかった。
この菅総理の祝辞に対して、父兄席から拍手が起こり、やがて出席者全員からも拍手が湧いた。中には菅総理の政権運用に批判的な方もいたであろうが、その方々も防衛大卒業式祝辞の内容については思わず拍手をしたに違いない。卒業式の祝辞で拍手が起こった事実、私には経験がない。五百旗学校長の意向は確かに届いていた。
卒業式典が終了した後、卒業生の任官式と宣誓が行われた。いつもは式典終了後にパレード式場で制服を着替えて行われる式典である。今回は、卒業式に引き続いて行われた。
宣誓書は、直接総理が受領した。菅総理は、任官したばかりの代表学生に手を差し伸べて握手を求めた。その学生はあわてながらも手袋を外して握手をしていた。いままで総理大臣が宣誓書を受領したことはなかったと記憶している。
五百旗学校長の学生に対する教育上の理念、槙智雄初代学校長の遺志を引き継いでいることを認識した。私は、中学校・高校時代の友人と共にこの卒業式に列席した。彼はこれまでに自衛隊とは全く関係がなかったが、私に感動的な卒業式であったと言った。
このような日本国の災害に直面している困難時にあっても、祝福を受け、さらには感動的な卒業式をもたらす背景には、これまでの多くの卒業生の貢献があった。卒業式終了後に手に持った制帽を一斉に投げあげて喜びを表す行動、今年は行われず自粛された。
防衛大の卒業式は国事の一環であることを改めて認識した。